工作機械業界の成長に
必要なエネルギー政策転換

 当面の間、インドネシアやマレーシアなどでのEVや車載バッテリー、半導体関連の設備投資は増加するだろう。米国バイデン政権は自国の自動車などの生産回復を急ぐために、マレーシアと半導体サプライチェーンの持続性強化に関する協定締結を急いでいる。

 加えて、欧州でも半導体、EVおよび車載バッテリー、脱炭素のための洋上風力などへの設備投資が増える。中国経済の減速が一段と鮮明になる可能性は高いが、それ以外の国と地域でわが国の工作機械への需要は増加するだろう。短期的にビジネスチャンスは拡大する可能性がある。

 ただし、その状況が長く続くと考えるのは早計だ。機械は分解され、その構造を模倣することができる。設備投資が増えてファクトリーオートメーションのための新しい制御機器や産業用ロボットなどの導入が増えるにつれ、東南アジアの企業は工作機械の製造技術を習得し、徐々に国産化を目指すだろう。それに加えて、欧州や米国では自国での雇用を増やすために、自国企業が生産する工作機械を優先的に使おうとするはずだ。

 そうした変化に対応するためには、わが国のエネルギー政策の転換が必要だ。それがHVの製造技術に依存するわが国産業の構造転換に欠かせない。資源エネルギー庁によると20年度の電源構成のうち39.0%が天然ガス、31.0%が石炭、6.3%が石油等だ。21年10月に閣議決定された第6次エネルギー基本計画では30年度の電源構成に占める天然ガスの割合は20%、石炭は19%と定められた。

 化石燃料に依存した電力供給が続く中で、わが国が「自動車一本足打法」とやゆされる経済構造を変えることは難しい。エネルギー政策の転換の遅れは、自動車など新しい需要創出を支える工作機械のイノベーションを停滞させ、わが国経済が世界経済の環境変化に取り残される可能性は一段と高まる。エネルギー政策の転換に時間がかかる結果として、健闘している工作機械業界が長期にわたって比較優位性を発揮し続けることは難しくなる恐れがある。