皇室存続のための有識者会議の2案は現実的に問題だらけ
私は、皇室の存続のために、「女性皇族が結婚後も皇室に残る案」「旧皇族の男系男子を養子に迎える案」という有識者会議の「二つの案」に加えて、英国的な皇位継承権者認定のシステムを一部取り入れてはどうかと考える(これについては後述する)。
なぜなら、「二つの案」を実行するには、現実的にさまざまな問題があるからだ。
まず、「女性皇族が結婚後も皇室に残る案」を考えてみよう。有識者会議では、内親王、女王の配偶者たる夫が有力となって、権力を持ってしまう事態があり得ることが指摘されている。
特に、女性皇族と結婚する一般国民たる配偶者に皇族の身分を認めると、一般人が皇族となる唯一の機会が婚姻ということになる。その結果、女性皇族の婚姻というものにさまざまな思惑が入り込む事態になり、いろいろないさかいが生じるという懸念がある(第6回「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」に関する有識者会議・ 議事録)。
次に、「旧皇族の男系男子を念頭に、皇族と養子縁組や、旧宮家そのものの復活を行うとする案」についてだ。
現在、「旧皇族の男系男子」とされる人の人数は、正確に捉えづらい。識者によって見解が異なり、その人数に幅があるのだ。現実的に皇統の維持のために必要と考えられる「独身の男系男子」に絞ると、久邇宮家、賀陽宮家、東久邇宮家、竹田宮家の旧4宮家に7人~9人いらっしゃるという見解もあった(「旧宮家は現在いくつある? 旧皇族の独身男系男子は何人?」)。
ただし、その多くの方が未成年とみられ、「子どもの人権」に配慮が必要だ。未成年の男子だけを直接養子にするという無理なことはできず、その父親を養子とすることが、有識者会議でも想定されている。
しかし、両親とともに子どもも皇室入りすれば、人権上問題がないのかといえば、そうとはいえない。子どもがある日突然、自らの意思にかかわらず皇室に入らされ、人権を制限されるということになるからだ。
そのため、有識者会議では「養子縁組は、十分な判断能力を有する成人が自らの意思により皇族の養子となり皇族となること」を想定し、「未成年が養子となる場合」は、「一定の年齢に達した後はその意思のみで離縁・皇籍離脱することができる」としている(第11回「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する付帯決議」に関する有識者会議・資料2)。
だが、離縁・皇籍離脱の自由を与えても、人権上の問題は万事解決とはいかない。例えば、皇族として教育を受けた子どもが、成人して皇籍離脱した場合、国民の税金で最高の教育を受けさせるため皇室を利用したなどと批判を受けかねない。「国民の血税の無駄遣い」という国民の皇室に対する不満が広がる懸念があるのだ。
さらに、「門地による差別」という問題もある。旧宮家の男系男子を現在の皇室とは別に、新たに皇族とすることは、一般国民の間における平等原則に対して「門地」などに基づく例外を設けて、「皇族」という継続的な特例的地位を認めることになる。
いわば、一般人の中から「新たな貴族階級」を作ることになり、それは憲法上疑義があるということだ(第4回「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」に関する有識者会議・ 議事録)。
要するに、有識者会議の二つの案を実行するには、さまざまな問題を慎重に検討し、乗り越えなければならないということだ。何よりも問題なのは、男系男子を有する旧4宮家の男系男子自身がこれらさまざまな問題を嫌い、皇族入りを拒んでしまうことだろう。