シェフは本当に食べなかったのか

「ジョブチューン」の該当回の場合、放送翌日以降に次のような記事が続々と配信された。

●「ジョブチューン」審査員が食べずに「不合格」で賛否の声 「前代未聞過ぎる」「相手に失礼」「あり得る」(スポーツ報知)
●「ジョブチューン」ジャッジで料理人が試食拒否 ネットざわつく「失礼」「納得」(デイリースポーツ)
●ファミマ担当者ガチ泣き…辛辣審査が波紋 ジョブチューン酷評シェフに「流石に失礼」「見ていてつらかった」(J-CASTニュース)

 記事タイトルに「食べずに」「試食拒否」とあり、その点にもっとも注目が集まっていることが分かる。

 記事を読めば、実際にシェフが「食べたいなって気にさせない」と商品のビジュアルを批評したものの、その後、開発担当者の懇願を受けて一口食べたことがわかるのだが、ネット上では「食べずにジャッジした」という情報だけが必要以上に一人歩きしている節がある。

「酷評」と言われているシェフのコメントについては、映像で確認するとシェフが開発担当者に対して「○○さん、ごめんなさいね」と最初にことわりを入れてから批評を始め、最後は「このおにぎり、いろんなだしを使って炊いてるし、だったらツナと一緒に炊くとか。(それで)油脂分がご飯に回ればツヤも出るし、マヨネーズ使うんだったらマヨネーズとツナを合わせたのをちょっとだけ中に入れるとか」と改良のためのアドバイスを具体的に行っている。

 商品のだしやマヨネーズの使い方にも言及されており、それなりに真摯(しんし)な批評という印象を受ける。また、シェフが本当に一口だけの試食でこれだけ具体的に語るとは考えづらいが、一口食べただけだとしてもこのような分析・改善点の指摘をしているのであれば、「食べずに」評価したことになるのだろうか。

 このシーンよりも前には実際、シェフがおにぎりを食べずに皿に戻し、アナウンサーが理由を尋ねるシーンもあったが、「食べなかった」点が編集や演出で誇張されたり、実際は別の場で食べた可能性もあるのではないかと感じる。

 さらにこの経緯がネットニュースで報じられ、コメント欄やSNSで個人の感想が書き込まれると、それを読む受け手側は「食べずにジャッジした(ように見える)」点だけに無意識に集中してたたく心理に陥っていく。シェフが「ごめんなさいね」と前置きしたことや、ファミリーマートが提案した他の2商品についてこのシェフは高い評価をつけていた、といった枝葉の部分は徐々にそぎ落とされていったのだ。