新型コロナ変異株の「思惑」と、
専門家がいない人類の「希望と不安のはざま」

 今後、オミクロン株は日本で感染拡大するでしょう。そして新型コロナの変異株に対する対応はまだまだ続くと考えたほうがいいでしょう。不透明な先行きに不安を感じますが、まずは、2022年のスタートはできる限りの自粛が賢明であると思います。

 20年の春、新型コロナについて右も左もわからず、また信頼できる情報が少ない中、当時、最前線の国立国際医療研究センターにいた忽那賢志先生(現大阪大学教授)のSNSや、ヤフーなどで定期配信されるネット記事を参考にしてきました。いつも大変的確、タイムリーで信頼できる情報をいただき、現場にとっては助かっています。

 感染症対策やウイルスの専門家はいますが、未知のウイルスである新型コロナウイルスの専門家ではありません。昨年21年8月の第5波ピークのとき、収束する材料が何もなく、不安に包まれていました。これほど急激に感染が落ち着くことは誰も予想していませんでしたので、「本当の専門家はいないのだ」と改めて感じました。

 現在直面するオミクロン変異株への危機感、先行き不透明感、不安感も、これと似たものを感じます。とはいえ、専門家が「楽観は禁物」と言っていることは積極的に受け入れたいです。有事に備え、何事もなければそれが一番いいのです。以前、「8割おじさん」の京都大学・西浦博教授が科学的な検証の上、このまま何も対策しないと42万人が死ぬという衝撃的な予測をしました。そのおかげで感染の拡大が抑えられたという功績もあります。

 なかなか、感染対策は想定通りにはいかないものです。医療体制、ワクチン接種、新たな治療薬などの選択肢が増えてきた「希望」と、未知のオミクロン、移動ができない「ストレス」、経済を回さなければならない「不安」のはざまで心は揺さぶられます。

 海外に比べると、日本の感染対策は機能しています。日本人の真面目さと我慢強さ、医療の優秀さ、行政の対策、これらは一定の評価をしてよいのではないでしょうか。

 行政と医師会が常に連絡を取り合い、臨機応変に連携し、限られた医療資源が最大限活用されること、それが第6波対策への最も有効な処方箋です。既に第5波の時点でほぼ体制は整っており、やるべきことはやっています。

 新型コロナ変異株という人類よりもはるかに長い歴史を持つウイルスの「思惑」は、全く予測不能です。オミクロン株の性質は未知のところもあります。今後いかに感染拡大するか、いかに対処して感染爆発を遅らせるか、いかに爆発のピーク時に感染者数を少なく抑えられるか。後は一人一人の行動にかかっています。

(監修/一般社団法人 荏原医師会会長、木内医院 院長 木内茂之)

*感染者数、オミクロン株対策は各自治体において、刻々状況が変わると予想されます。本稿の情報は2022年1月7日時点の情報です。

◎木内 茂之(きうち・しげゆき)聖マリアンナ医科大学卒業。同大学第三外科、国立国際医療センター呼吸器外科を経て、1998年から木内医院院長。日常診療の傍ら、2021年6月から、一般社団法人荏原医師会会長。