世界的にコロナ感染者数が増加している。日本でも感染爆発はあるのか。絶対数はまだまだ少ない。オミクロン株の急拡大に備えよと感染専門家が警鐘を鳴らすも、「危ない」という実感をなかなか持てない。東京都品川区荏原医師会の木内茂之会長(木内医院院長)は、第5波までの教訓を生かし第6波に備えても「安心できない」と懸念する。(聞き手・構成/医療・健康コミュニケーター 高橋 誠)
第5波の教訓と
第6波への備え
私は東京都品川区のクリニック院長として、また地区の医師会会長としてコロナ対応にあたっています。患者さんに日々接している立場から、オミクロン株の今後の拡大は予断を許しません。既に濃厚接触者の自宅待機の数が急増しており、自治体によってはパンクしつつあります。隔離の方法を緩和しないとならないほどの状況です。
第6波は、第5波までの経験と準備があてにならないくらい、私たちの準備をはるかに超える急激な拡大となる可能性を、現時点では否定できません。全国の1日の感染者数が6000人を超える日も出始めました。
デルタ株の第5波がピークとなった8月、当院の発熱外来でも、来院患者の6割が陽性でした。保健所はパンクし、中等症、重症患者用の病床も満床が続き、ホテルや自宅療養者の症状が重症化した場合、受け入れ病床がない、という大きな懸念に包まれていました。
この8月のピーク時に対応すべく、自宅療養者に対するオンライン診療、往診の仕組みを、医師会と保健所が連携して作りましたが、本格的に運用する前に感染状況が急激に落ち着きました。9月以降の感染者数は低水準が続きましたが、第5波ピーク時に作った「自宅療養者のオンライン診療、往診」のスキームは維持しています。第6波での感染者数、重症者数が第5波より2、3割多いと想定し、自宅療養者の経過観察を保健所と分担する体制を整えています。
また、健康観察は保健所が行うものですが、第5波ピーク時はこれがパンクしました。第6波に備えて、保健所に代わってわれわれ開業医が健康観察をするスキームが、現在はできています。これにより、保健所の負担がかなり減るだろうと考えています。指定感染症のため公費での対応を含め全権を保健所が握っていた中、感染者数が一定以上に増えてうまく回らなくなった第5波ピーク時の反省と教訓を生かし、上述のように保健所との連携を強化するようにしました。
当時、病院やクリニックでは、保健所の指示なく陽性者の診療をすることはできませんでした。感染者発生届を提出した後は、保健所の指揮下に入ったのです。保健所の負担軽減策として、それまで保健所が行っていた自宅療養者の健康観察をクリニックが担うことになりました。これは大きなことです。
PCR検査は、翌日には結果が判明します。その翌日には保健所が病院、ホテル、自宅療養などの差配をしていました。ところが第5波で人数が増えると、保健所のマンパワーには限りがありますから、自宅療養の観察には十分に手が回らなくなってしまいました。保健所からの連絡が、患者さんにすぐに行かないケースも増えました。
そのため、第5波ピーク時には「自宅療養者の健康観察」という、重症化を早期に見つける業務を、われわれ開業医がサポートせざるを得ない状況でした。8月は当院でもSMSで1日20人の患者さんと3~4回連絡を取り合い、必要なときには電話もしていました。保健所からの連絡、指示と重なってしまうなど、一時は混乱しましたが、予想以上の急拡大の局面ではやむを得なかったでしょう。