医師と患者は相性が大事
Tomy:情報リテラシーの低い患者さんが、目の前で怪しげな情報を口にしたときに、山本先生はどう対処されますか?
山本:「そんな怪しげなものを、なんで信じちゃったんですか」と言うのは絶対にNGです。病院に来てくれた時点で、もう救われる可能性が高いので、「よく来てくださいました」という気持ちで、「相談してくださってありがとうございます」と口にするところからスタートします。まずは感謝の念を示して、その次に「その情報はどこに書いていましたか?」「どんなふうにその情報を手に入れましたか?」とお聞きします。
科学的根拠のない情報に行き着き、信じ込んでしまう人の場合、その背景に医療不信とか、医者に対する猜疑心があったり、周囲の家族や親類、知人からの声がけが、不安や不信感を増幅させる原因になったりしていることがあります。なので、そこにアプローチすることが重要だと思います。
Tomy:僕は正直に対応する性格なので、怪しげな情報を聞いたときに絶句してしまうこともあるんですよね。そんなときは、患者さんのほうが「ごめんなさい」と言ってくれるんですけど……。まず感謝の気持ちを表さなきゃ駄目だなと反省しました。
山本:精神科領域もそうだと思いますけど、病気になったあとの医師との付き合いは、特に近年、長期化していますよね。ご高齢の方だと、家族の次によく会う人が医師ということもあるわけです。
医師側も患者さんを治療しようと思ったとき、患者さんの病気だけに注目するのではなくて、その方を取り巻く社会的背景、職業とか、ご家族との関係、家族構成、住んでいる場所など、あらゆることを考えないと適切な治療は提供できません。患者さんの側にも、医師との相性、つまり、性格的に合う、人間的に信頼できる、というところがないと、良好な人間関係は維持できない気がしますね。
Tomy:精神科は治療ではそんなに差は出ないので、相性の問題は特に大きいですね。一番大事なことを相談する相手なので、人間的に好きじゃないと長続きしないというのは、医学が始まったときからの本質的なところだと思います。
ただ、そういう付き合い方だと自分が診察して向き合った患者さんしか治療できないので、Twitterや本を書くことで同時にたくさんの人に情報を届けることも重視しているわけなんです。
AIで医療はどう変わる?
Tomy:最近は医療分野でも医師の仕事がAIやロボットに代表される新しい技術に置き換わるという話をよく耳にするようになってきましたが、山本先生はどうお考えでしょうか?
山本:かなりの部分は、AIに任せられるようになると思います。手術でも、多くの部分でAIがナビゲーションする時代が来るのかなと思います。完全なオートマ化は無理としても、ある程度セミオートになってきたときに、責任を持ってハンドリングできる医師と、そうでない医師に二極化して格差が広がるのではないかとも懸念します。外科にかぎらず、どの診療科でもAIは格差を広げる要因になるのではないでしょうか。
Tomy:そうですね。リスク管理という意味では、AIが同じ結論を出してくれたら標準化された治療であるという保証ができるので、機械に任せたほうがいい部分も出てくると思います。その上で「この先生に会いたい」とか「この先生に診てほしい」というのは、AIでは置き換えられないので、そこで差別化が出てくると思います。
「AIでやることと同じだったら、あなたのところじゃなくてもいい」という患者さんが出てくると、自分の魅力、差の要因をうまく打ち出せるかどうかという話になってきます。医療に限らず、どのジャンルにおいても、そういう傾向が進むのではないかと思いますね。
今日はいろいろ楽しいお話をありがとうございました。
山本::こちらこそ、ありがとうございました。
(構成:渡辺稔大)