会社に入ると
途端に「感情の報酬」が得られるなくなる
2つ目の「エスティーム ニーズ」(承認欲求)と3つめの「エモーション リワード」(感情の報酬)はまとめて説明したほうがわかりやすいと思います。
今の若い人たちは承認欲求が高まっている。
これはたしかな傾向だと思います。フェイスブックやツイッター、今はインスタグラムとかティックトックがメインでしょうけど、いずれにしてもSNSでたくさんの「いいね」をもらって育ってきた世代です。
高校、大学時代も、何かを発信すれば、みんなから「いいね」をもらえる。そんな感覚が当たり前です。
まさに、この「いいね」が「エモーション リワード」「感情の報酬」となっているわけです。
ところが、会社に入ると途端に「いいね」がもらえなくなる。
先輩(特に年配の)社員のなかにはSNSをやっていない人も多いですし、会社によってはSNSを禁止しているところもあります。
実際の職場でも、若い人たちがSNSで体験したような「何かをすれば、たくさんの『いいね』がもらえる」わけではありません。
圧倒的に「承認される機会」が少ないわけです。
SNSの世界では「発信すれば感情の報酬」をもらえるので、損得勘定で言えば「得」ですが、現実の会社では発信しても何の報酬も得られない。みんなから「いいね」が集まってくるわけでもない。
エモの損得勘定で言えば、発信するだけ「損」なんです。
だから、若手に「どんどん意見を言ってください」「アイデアをどんどんください」と言っても、言わなくなる。
エモ的に損なので、彼ら、彼女らにしてみれば当然の行動なんです。
―― 「エモ的に損」というのはわかりやすい表現ですね。
一方で、それがわかっているリーダーやマネジャーはエモの部分で、きちんと報酬を返していきます。
若手個人のいいところをていねいに認めていきますし、褒めもします。
そうやって「感情の報酬」を得られることを体感すれば、若手にとっても「発信すること」「意見を出すこと」「主体的にがんばること」がどんどん「得」に感じられます。
そんなふうに若手のいいところ、モチベーション、やる気を引き出す努力をちゃんとやっているんです。
「若手が意見を全然言わない」と嘆いているリーダーやマネジャーもときどき見かけますが、それは「意見を言った方が得」と思わせることができていない。
もっと言えば、意見を出してくれたことに対する「感情の報酬」を与えられていないということだと私は見ています。
―― 「感情の報酬」を返すことの重要性はたしかに理解できます。ただ、若手の意見が、曽山さんのようなベテランの人たちからすると「たいしたことない意見」だったり、「考えが浅いもの」だったりすることもあるじゃないですか。
そういうときはどうするんですか?
たしかに、そういう場面もありますよね。これは大事なポイントで、そのときは二段階に分けるんです。
まず「意見を言ったことを認める」。
「そういう意見を言ってくれてありがとう」「そういうアイデアを聞かせてくれて、本当に嬉しい」などです。
この部分を肯定することがすごく大事です。
意見を言ったり、意思表明をしてくれたことに対する肯定や称賛、感謝をする。これは絶対必要です。
そこで「いいね」を伝えなければ、エモ的に得を感じることができませんから。
その上で、内容的に足りないところがあるなら伝えればいいですし、もっと考えて欲しい部分があるなら、それを求めればいいわけです。
―― まずは「感情の報酬」を与えることが大事なんですね。その肝心の「感情の報酬」を送るときのポイントは何かありますか?
もっとも大事なのは、上辺だけで褒めるのではなく、本気でそう思うこと。
これはすごく大事なポイントです。
口先だけで「意見を言ってくれてありがとう」なんて言っても(言わないよりはマシですが)それこそ「エクスポージャー」バレバレです。
意見を言ったり、アイデアを出すことそのものを、本気で称賛し、感謝を伝える。
それが伝わると、若い人たちは「感情の報酬」を得て「意見を言った方が得」だとどんどん感じられるようになっていきます。
それが伝えられるリーダーが若手のやる気を引き出し、ひいては、若手を育てていけるのだと思います。
曽山哲人(そやま・てつひと)
株式会社サイバーエージェント 常務執行役員CHO
1974年神奈川県横浜市生まれ。上智大学文学部英文学科卒業。1998年伊勢丹に入社、紳士服部門配属とともに通販サイト立ち上げに参加。1999年、社員数が20人程度だったサイバーエージェントにインターネット広告の営業担当として入社し、後に営業部門統括に就任。2005年に人事本部設立とともに人事本部長に就任。2008年から取締役を6年務め、2014年より執行役員、2016年から取締役に再任。2020年より現職。著書は『強みを活かす』(PHPビジネス新書)、『サイバーエージェント流 成長するしかけ』(日本実業出版社)、『クリエイティブ人事』(光文社新書、共著)等。ビジネス系ユーチューバー「ソヤマン」として情報発信もしている。
2005年の人事本部長就任より10年で20以上の新しい人事制度や仕組みを導入、のべ3000人以上の採用に関わり、300人以上の管理職育成に携わる。毎年1000人の社員とリアルおよびリモートでの交流をおこない、10年で3500人以上の学生とマンツーマンで対話するなど、若手との接点も多い。