日本の財政は本当に危機的なのか?「ワニの口」財政理論のカラクリとはPhoto:PIXTA

日本の財政状況は危機的といわれており、このままでは、財政は破綻するとされている。国債の償還ができない、ハイパーインフレになる、金利が暴騰する、円が暴落するなどの危機が起きるというのだ。ところが、現在までのところ何も起きていない。何も起きない理屈ではなく、そもそも財政が危機的状況なのかという認識について、疑問を述べたい。(名古屋商科大学ビジネススクール教授 原田 泰)

日本の財政状況は本当に「危機的」なのか

 日本の財政状況は危機的といわれており、このままでは、財政は破綻するといわれている。国債の償還ができない、ハイパーインフレになる、金利が暴騰する、円が暴落するなどの危機が起きるというのだ。ところが、現在までのところ何も起きていない。

 私も不思議で、上記のうちの、なぜ金利が上がらないかについては、いくつかの論考を書いている(例えば、原田泰『デフレと闘う』中央公論新社、2021年、367~368ページ)。本稿では、何も起きない理屈ではなくて、そもそも財政が危機的状況という認識についての疑問を述べたい。

「ワニの口」は存在するのか

 財政の危機的状況を表す言葉として「ワニの口」という表現がある。例えば、財務省HPのキッズコーナーでは、「歳出と税収の差はワニの口のように開き、税収の不足を補う公債の残高がどんどん積み上がってきています」との記述がされている。

 ワニの口のグラフは図1のようになる。しかし、これはワニの口に見えない。

 なぜなら、ワニの口とは以下のようなもので、端に向かうに従って拡大していくものだからだ。

日本の財政は本当に危機的なのか?「ワニの口」財政理論のカラクリとはPhoto:PIXTA
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 歳出と税収の差が本当に「ワニの口」の形をしていたのは、1990年度から99年度までであり、その後ワニの口は閉じ気味になっていった。2009年のリーマンショック時には再びワニの口となったが、その後も閉じ気味になった。20年度以降、現在までのコロナショック時では再び開いているが、拡大し続けているというわけではない。すなわち、2000年度以降の歳出と税収の差は、何かショックがあるときには極端に開くが、その後は閉じ気味になるという動きをしている。