赤字国債Photo:PIXTA

2000年以前は、景気刺激策として財政政策を積極的に活用すべきではないとされていた。民間の資金需要を抑制する恐れがあり、また、長期金利が名目成長率を上回っていたことも背景にあった。しかし、今や名目成長率が長期金利を上回ることが常態となり、主流派経済学の財政政策への評価は一転した。ただ、それは国債バブルの存在ゆえである。(BNPパリバ証券経済調査本部長チーフエコノミスト 河野龍太郎)

大きく変貌した主流派経済学の
財政政策に対する評価

 パンデミックは需要ショックとは異なるタイプの危機であり、総需要の刺激を目的とするマクロ安定化政策の発動は不適切である。経済活動を活発化させ、感染が拡大し、一国の医療能力の上限を超えれば、元も子もない。例外はあるが、先進各国で主に採用されたのは、企業倒産や失業の回避策、あるいは家計の所得補償などの財政政策だった。

 金融政策は、補助的役割にとどまり、(1)ゼロ金利政策の下で、人々の不安心理を抑えるための大量の流動性供給、(2)大量の国債発行がもたらす長期金利上昇のQE(量的緩和)による抑え込み、③機能しなくなった金融市場の質的緩和による補完―などにとどめられた。

 ただ、ゼロ金利が長く続いた日本だけでなく、米欧でも、コロナ前から長期金利が大幅に低下し、次の不況では、もはや金融政策はマクロ安定化政策の主力になり得ない、という見方が広がっていた。今回のコロナ危機では総需要刺激が必要とされなかったため、この深刻な問題が覆い隠された。

 将来、大きな需要ショックが訪れると、金融政策の限界が改めて確認され、マクロ安定化政策の主役が財政政策であることが、日本以外でも明らかになるのだろうか。実は主流派経済学の財政政策の評価は、大きく変貌している。それが本稿のテーマだ。