セブンDX敗戦#3Photo:artparadigm/gettyimages

2021年秋、セブン&アイ・ホールディングスは社内会議を開き、デジタルトランスフォーメーション(DX)戦略の目玉構想を中止する方針を示した。ダイヤモンド編集部は会議の動画を入手。特集『セブンDX敗戦』(全15回)の#3では、DX戦略のキーマンが引導を渡された会議で何が語られたのか、その一部始終を解き明かす。(ダイヤモンド編集部編集委員 名古屋和希)

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3人の“役者”出そろう社内会議
DX戦略・部隊の“退場”を宣告

「新会社の方針に関する説明会」――。

 2021年10月7日、東京・四ツ谷のセブン&アイ・ホールディングス(HD)本社9階の会議室。デジタルトランスフォーメーション(DX)業務に携わる社員を対象とするオンライン会議が急きょ開かれた。

 セブン&アイはDX戦略の要となる新会社を22年春に発足させる計画を水面下で進めていた。「ライスプロジェクト」と名付けられたこの計画は、HD傘下のIT子会社を合流させ、グループのIT人材を集約する構想だった。

 計画を指揮してきたのは、リクルート出身で執行役員だった米谷修氏をトップとするグループDX戦略本部。新会社構想は米谷氏のDX戦略の大きな柱の一つだった。ライスプロジェクトが米谷氏の名を冠していることからも、その重要性が伝わってくる。

 しかし、特集#1『【スクープ】セブン&アイのDX、担当役員は失脚しIT新会社は白紙!内部資料で暴く「完全崩壊」全内幕』で触れたように、米谷氏が主導してきたDX戦略は、21年7月にまとめられた中間報告によって内部の厳しい総括にさらされた。

「(グループDX戦略本部と)コミュニケーションが取れない」。中間報告ではグループDX戦略本部への事業会社の不満が爆発。結果、DX戦略の「司令塔」は中間報告に先立つ同年6月に二つの本部に解体され、米谷氏が横滑りした本部の権限は大きく縮小された。

 短期間での失速に、DX部門内では動揺が広がっていた。

 実はライスプロジェクトを見据えて、コンサルティング会社やIT企業といった、他社からセブン&アイ・グループに参画したIT人材はかなり多い。DX部門や計画の縮小は、セブン&アイのDX大号令を期待した“転職組”の仕事内容や待遇が、大きく変わることを意味するからだ。

 そんな状況下で、開催されたのが冒頭の社内会議である。

 会議の主役は3人。創業家出身でDX戦略を管掌する取締役の伊藤順朗常務執行役員と米谷氏、そして米谷氏の後任で三井物産出身の執行役員である齋藤正記氏が登壇した。今回のDX敗戦に直接的に関わる“役者”が出そろった形だ。

 今回、ダイヤモンド編集部はその社外秘の会議の始終を記録した動画を入手した。

 20分超の会議の動画に記録されていたのは、米谷路線の“退場”をこれでもかとばかりに宣告する異様な光景だった。まるで「公開処刑」のようである。

 さらには、米谷氏のみならず、米谷氏が関与したDX部隊の事実上の“切り捨て”までも宣言された。

 DX戦略のキーマンだった米谷氏が“引導”を渡された会議で、いったい何が語られたのか。次ページでは、セブン&アイが米谷氏を軸に推し進めてきたDX戦略の「敗戦」を決定づけた、創業家の“御前会議”の一部始終をひもといていく。