ジャパネットたかたの佐世保本社内にあるテレビスタジオを会場に、あの聞き覚えのあるメロディにのせてスタートしたジャパネットたかた創業者(現 A and Live代表取締役)・高田明氏のトークイベント「『ザ・ゴール』から学んだこと」。
あたかもテレビショッピングが始まるかのような雰囲気の中、聞き役のゴールドラットジャパン CEO・岸良裕司氏と高田氏のトークテーマは、2021年に日本発刊20周年を迎えた『ザ・ゴール』の魅力と本質、そして高田氏の経営観、人生観の話にまで及んだ。今回の連載では、できるだけ会場の熱気そのままに、ダイジェスト版として当日語られたことのエッセンスをお届けする。
※本記事は2021年11月19日に特別開催された『ザ・ゴール』日本発刊20周年特別トークイベント「『ザ・ゴール』から学んだこと」をもとに作成しています。

今を生きる——『ザ・ゴール』に書かれていることの本質

 イベント会場に入場するや否や、掲げられたタイトルを見て、「ちょっと間違いがありますね」と指摘した高田氏。「『ザ・ゴール』から学んだことではなく、学んでいることです。学んだというと、もう終わったみたいな感じがしますから。人は何歳になっても学び続けなければいけません。みなさん、そう思われませんか?」と明るく参加者に話しかける高田明節は健在だ。会場の空気があたたまったところで、氏は本書との出会いを語り始めた。

「ジャパネットたかた」をつくり上げた高田明氏の人生哲学

「早速ですが、僕は『ザ・ゴール』を読んで、人生が変わりました。通販の世界に入ったのが40代で、本書に出会ったのは、50歳を過ぎてからでした。

 この本に書かれているのは、このままでは3ヵ月後には工場が閉鎖になってしまう……、そんな窮地に立たされた主人公が奮闘する物語ですが、工場といった生産現場に携わる方だけに向けた本ではありません。親交のある京都大学iPS細胞研究所所長の山中伸弥さん、そして今日会場にいらっしゃっている同じく京都大学iPS細胞研究所の渡辺亮さんの専門分野である医療関係、あるいは学校の先生といった幅広い分野に共通する『人生の書』だと僕は思っています。

 もちろん、利益に対する考え方、在庫や業務費用をどう捉えるかなど、工場再建、経営改善に欠かすことのできない大切なことがたくさん書いてあります。しかし、博士が一番伝えたかったのは、『今を生きることの大切さ』だったのではないでしょうか。この『今を生きる』というのは簡単なようで難しい。誰しもよくよく気をつけないと、今を一生懸命に生きている『つもり』になっていることがあるからです。本当に一生懸命生きるからこそ、すべての物事は解決に向かっていくのであって、つもりではうまくいきません。

 本書では、経営を改善するために必要な『利益』にフォーカスしていますが、博士はお金を稼ぐことが目的だと言っているのではありません。利益はあくまで手段であって、一番大切なのは、それぞれに与えられたミッションであり、今を生きることだと博士は説いているのだと思います。ミッションというのは、何のために生きているのかということです。僕は今73歳で、117歳まで生きることになっていますから……」

 そこで急に話を止めた高田氏は「ここはちょっと笑うところですよ」と言って参加者の笑いを誘った。話は逸れるが、イベント冒頭でも「講演というのは、登壇者が話して参加者が聞くだけではダメだと思うのです。この時間と空間を共有して、笑ったり、拍手したりと双方のやりとりがあって初めて完成する。それはリモートでも同じで、表情豊かにいきいきとコミュニケーションすることが大切なのです」という趣旨の発言があった。対面でのビジネスが主流だったコロナ前から長きにわたり、ラジオやテレビを通して視聴者に想いを届け続けてきた高田氏の発言だからこそ、参加者は一段と説得力を感じたのではないだろうか。

人生はシンプルである

 小休止を挟んで、ミッションの話は続く。

「僕があと四十数年、117歳まで生きるとしたら、それまでどうやって生きたら幸せかと考えることがあります。家族だけでなく、従業員、お客様も含めて、どれだけの人に出会って、どれだけの方々と人生を共にして、どれだけの人を幸せにできるか。そうしたミッションを全うしたときに、“My work is done.”(私の役割は終わった)と言って、コテンと死にたい。それこそが一回きりの人生の一番の楽しみだと思うのです。そして、そうしたことを博士は『ザ・ゴール』を通して伝えたかったのではないか。博士の本を読めば読むほど、そのように感じるのです」

「ジャパネットたかた」をつくり上げた高田明氏の人生哲学

 そして、博士の思想において重要なこと、すなわち人生において重要なことをさらに深く知るためには、『ザ・ゴール』を読んで終わるのではなく、『ザ・チョイス』も読んでほしいという。

「『ザ・チョイス』に書かれていることは、物事はシンプルであるということ。そして、もう一つ書いてあるのは、人はもともと善良であるということです。僕は、この本を読んだときに、この2つが、人間の生き方に大きく関係していると感じました。

 今を一生懸命生きるなら、これまで複雑に思っている出来事が実はシンプルだということに気づくことができます。

 例えば、どんな会社においても、部分最適、全体最適にまつわる課題、改善点はたくさん存在しています。ジャパネットだけでも300ぐらいあるのではないでしょうか。では、その課題は複雑なのでしょうか?

 そうではなく、シンプルだと考えることが大事なのです。二宮金次郎さんも『積小為大』と言っているように、一つひとつの『今』は小さいかもしれないけれど、それを積み上げていく。そのこと自体がもう成功なのです。物事をシンプルに考えて本当に大事なもの、博士の言葉で言うとボトルネックに集中して、今日、一生懸命に小さなことを積み上げていったら、明日が変わります。明日は明日で一生懸命やったら、明後日が変わっていく。すべてはシンプルなのです」

「ジャパネットたかた」をつくり上げた高田明氏の人生哲学

 聞き役の岸良氏も「博士は、科学者の心を大切にしていました。科学者は実験が最初からうまくいくとは思っていません。うまくいかなかったことから学ぶ。人のせいにもせず、自分のせいにもせず、常に学び、改善していく。それを毎日繰り返すことを博士も大切にしていました」と相槌を打つ。

「科学者の心というお話がありましたが、太陽はどっちから昇って、どっちに沈んでいくのかというと同じで、物事はよくよく考えたら、シンプルで当たり前のことなのです。

 にもかかわらず、人間は変えられないことで悩みすぎている。悩みの8割は変えられない。でも、2割、あるいは1割は変えられる。そのことに集中すれば、すっと気が楽になる。そうやってシンプルに考えてからでないと、変化は起こせないと思うのです。

 実は、今朝、たまたまテレビをつけたら、今日お話ししようと思っていた思想家の中村天風さんのことが出ていたのでびっくりしたのですが、天風さんが大切にしていた言葉に『雲煙過眼』というものがあります。雲煙とは、いわば過去のことであり、自分の頭の上を雲や霞が通り過ぎると、人はついつい振り返ってみてしまう。でも、いつまでも見ていても仕方がありません。前を向いて進めという言葉だと僕は理解しています。

 つまり、過去は変えられないけれど、未来は変えられる。自分が『今』という瞬間を一生懸命、『つもり』にならずに頑張っていく。そうやってシンプルに考えて、今を生きていけばいいと思います」

 次回のキーワードは、「ボトルネックを探す旅」。高田氏は、部分最適のみに陥ることなく、今を生きるために、どのように仕事、人生と向き合ってきたのだろうか。