高い栄養素を持つハイブリッドな生物「ユーグレナ(和名:ミドリムシ)」に注目し、バイオベンチャー「ユーグレナ」を立ち上げた出雲充氏。バイオテクノロジーの進化のスピードは「人間の脳が理解する範囲を超えている」という。就活生の親たちは、若い世代の選択を信じてほしいと語る。(文/上條昌史、撮影/加藤昌人)
*本稿は、現在発売中の紙媒体(雑誌)「息子・娘を入れたい会社2022」の「Special Interview ネクストwithコロナの生き方・働き方」を転載したものです。
「不安はなかった」
大手銀行を辞めベンチャーを創業
大学1年生の夏、出雲充氏はバングラデシュを訪問した。世界一貧しいと言われるその国で出合ったのは、厳しい食料事情だった。子どもたちは栄養失調で苦しんでいる。帰国後、こうした状況をなんとかできないかと勉強するうち、動物と植物のハイブリッドである「ユーグレナ(和名:ミドリムシ)」が、栄養問題を一気に解決できる存在だと知った。
微細藻類のユーグレナは、体長わずか0.05ミリメートルの小さな藻の一種で、細胞を変形させて動く「動物」と、光合成をして栄養分を作り出す「植物」の2つの性質を持つ稀有な生物である。そのユーグレナが、新たな栄養食材となる可能性を見出し、東大発ベンチャーとして2005年に創業したのがユーグレナ社だ。
東京大学内に研究所を構え、ユーグレナを大量に安定的に培養・供給する技術の研究を続け、世界で初めて食用の用途として屋外での大量培養に成功。
「ユーグレナは新しいバイオ素材として食品や化粧品として活用され、さらに飼料や肥料、プラスチックなどに利用されるでしょう。バイオ燃料はすでに実用段階に入っています」と出雲氏は語る。
高タンパクで高栄養な食品原料としての食品利用はもちろん、ユーグレナを原料の一部としてバイオ燃料を作り出し、飛行機や自動車の燃料として利用するための研究開発を進めているのだ。
ユーグレナ社が目指しているのは、地球上から栄養失調をなくし、サスティナブル(持続可能)な循環型社会を実現することである。同社は14年12月に東証一部上場を果たし、15年1月には、第1回日本ベンチャー大賞の最高賞である内閣総理大臣賞を受賞した。