ヴァイオリニストでテレビ朝日系『羽鳥慎一 モーニングショー』のコメンテーターとして活躍中の『私がハーバードで学んだ世界最高の「考える力」』著者・廣津留すみれさん。大分県で生まれ育ち、小・中・高と地元の公立校、塾通いも海外留学経験もないまま現役合格したハーバードをなんと首席で卒業。その後、進学したジュリアード音楽院も首席で卒業した。すみれさんが学び、実践してきた「考える力」を事例やエピソードとともに、わかりやすく紹介します。
無理に頑張りすぎるよりも
パワーナップで
リカバリーしよう
ハーバードには「学業、社交、睡眠のうち、2つしか同時に手に入らない」というジョーク(と言われますが、真実です)があります。3つとも同じくらい大事なのですが、多忙な学生生活において3つを同時に満たすことは難しいのです。
学業も社交も大切ですから、消去法で削るのは睡眠になりがちです。私もつねに睡眠不足でしたが、「まあハーバードの学生生活なんて、こんなものだろう」と諦めていました。でも、睡眠不足だと、頭の回転は明らかに鈍ります。
睡眠不足で回転が鈍くなった頭で何かを考えたり、タスクをこなしたりしようとすると、余計な時間がかかるので、それがまた睡眠時間を圧迫する悪循環に陥ります。
厚生労働省の『健康づくりのための睡眠指針2014』にも、睡眠不足は「人間が十分に覚醒して作業を行うことが可能なのは起床後12~13時間が限界であり、起床後15時間以上では酒気帯び運転と同じ程度の作業能率まで低下する」と記されています。
ハーバード時代、平日は膨大な課題に追われて、深夜3時くらいまで眠れないのが当たり前でした。そこで何とか睡眠時間を確保しようと、私なりに工夫をしていました。
第一に活用したのは「パワーナップ(昼寝)」です。
ハーバード生は1年次は大学近くの寮で生活しています。そこで、時間が空いたら小走りで寮に帰って、15分か30分ほどパワーナップをしていました。
パワーナップには、眠気を解消するだけではなく、睡眠不足で低下した集中力や記憶力を回復させる効果があるそうです。実際、私もそれを実感しました。
先の厚生労働省の指針でも「午後の早い時刻に30分以内の短い昼寝をすることが、眠気による作業能率の改善に効果的です」と書かれています。ただし、30分を超えて寝てしまうと深い眠りに入り込み、逆に起きたときに脳が眠たいままになってしまうので、眠りすぎには注意しなければなりません。
世界的にはIT企業などを中心にパワーナップの場所や時間を設けるところが増えてきました。南欧ではランチの後にゆっくり休むシエスタ(昼寝)が当たり前です。
日本でも昼寝の制度を取り入れる企業が現れています。勤め先で昼寝が制度化されていなかったとしても、空いている会議室などを利用してパワーナップしてみると、1日を通してパフォーマンスの低下が避けられるため、仕事の能率が上がると思います。
私は演奏会の前にも昼寝します。楽屋で15分くらい空き時間があったら、練習に励むより昼寝をしたほうが効果的なのです。
本番ギリギリまで練習して気になるところを直そうとしても、演奏レベルが劇的に上がることはありません。それよりも昼寝して脳と体のコンディションを整えたほうが、筋肉が演奏の動きを覚えている「マッスルメモリー」が活性化するので、結果的に上手に弾けるようになります。
先日、私はアメリカ北東部のコネティカット州の音楽祭に参加しました。この音楽祭をニューヨークの有名なダンスカンパニーと共催しているのは、ウォール街などで財を成して早期引退した超リッチな富豪の方々です。彼らは音楽祭に参加する若い音楽家を自宅に招いて、ホストとしてもてなしてくれます。
本番当日、ホストファミリーの豪邸で私がパワーナップをしていたら、「練習が聴けると思って楽しみにしていたのに、すみれはホント寝てばかりだったね」と冗談交じりにからかわれました。そこで「パワーナップで力をためておくと、本番直前まで練習ばかりしているより、よい演奏ができるんです」と説明すると、今度はすっかり感心してもらいました。
かつてウォール街でバリバリに活躍していた頃を思い出したのかもしれません。