セミナー後、紙の資料は使えない

(2)セミナー終了後、紙の資料はほとんど役に立たない

 今の時代に分厚い紙の資料を配布することが本当に役に立つのだろうか?筆者は紙の資料は一切不要だと考える。これはSDGsや環境配慮の観点で言っているのではない。紙の資料は実用的ではないのだ。

 思い出してみてほしい、今までに参加したセミナーでもらった資料は一体どうなっているか?整理のきちんとした人なら何らかのファイルにとじ込んでおいてあることもあるだろう。でも多くの人は机の上に置いたきり、そのまま後で見ることもなく、数カ月後に整理するときに捨てて終わりだ。

 ところが中にはセミナー受講時には気付かなかったものの、あとでもう一度確認したいということもあるだろう。前述のように整理の良い人ならともかく、大多数の人は「放ったらかし→その後廃棄」という流れをたどっているため、時間がたちすぎると確認は難しいだろう。これが紙の資料の宿命なのである。

 一方、資料がPDF化されており、それをダウンロードできるようになっていればどうだろう。とりあえずパソコンでもスマホでも取り込んでおけば場所を取ることもないし、必要であればいつでも取り出すことができる。ハードコピーが欲しいのなら印刷すればいい。セミナーを受講した後日、友人と話をしていて、たまたまそのセミナーのことが話題になっても、持っているスマホで資料を表示して説明することだってできる。これもデジタル媒体の大きなメリットと言っていいだろう。

 主催者にとっても「印刷→配布」をなくすことでコストも手間も削減されることは言うまでもない。

 中には「パソコンもスマホも使えない人がいるからやっぱり紙の資料は必要だ」という意見もある。もちろんそういう人はごく少数だがいる。でも今の時代にパソコンもスマホもそういったデジタルツールも全く使えないという人はせいぜい数%だろう。であるなら、そういう人たちに不利益が及ばないようにするために大多数の人たちの利便性を犠牲にするというのは本末転倒な話ではないだろうか。

 これが公共の組織や団体が主催する講演会であれば、そういうこともやむを得ないかもしれないが、民間の団体が主催するのであれば、多くの人の満足度を高めるために割り切りが必要だろう。

 筆者はデジタルツールを使えない人は自分のお客様ではないと割り切っている。この記事を読んでいただいているみなさんだってパソコンやスマホで読んでおられるはずだ。筆者自身、紙媒体への寄稿もあることはあるがその割合は1割ぐらいで、ほとんどはWEBコラムが主流だ。そもそもWEBを見られない人は、私の存在すら知らない可能性が高い。

 結局、「講演=資料配布が必要」という思い込みこそが問題なのだ。

 本当に参加する人のことを考えれば、もっと工夫されるべきなのではないだろうか。どうすれば参加者の満足度を高めることができるか、どういうツールや方式を使うことが参加した人にとって役に立つのだろうか、ということを真剣に考えず、単に「講演会は紙の資料を配ればいい」と考えてしまうのは恐ろしくステレオタイプであり、かつ思考停止といえるのではないだろうか。

 セミナーは学会の発表ではない。知的エンターテインメントであるなら、より参加者の役に立つ方法を考えていくべきだと思う。