では、どのように「ご機嫌」でいるか。スポーツの場ではミスが起こる。自分自身やチームメイト、時にはレフェリーがミスすることもあるでしょう。それに囚われていては、良いパフォーマンスが発揮できません。そこで、過去よりも今目の前のことだけに真剣に注力するのです。

“ご機嫌”を浸透させて
J1昇格を果たしたV・ファーレン長崎

スポーツやビジネスで成功する人が身に付けている「ご機嫌」のスキル

 J2のV・ファーレン長崎では、チームメントレで「認知脳」と「非認知脳」のお話もしました。認知脳とは、意識が外側に向く脳の働きのことを指しています。我々は、「環境」「出来事」「他人」という外側にあるものを、するべきことの情報として常に意識してしまうのですが、「過去」や「未来」もこれに当てはまりますね。

 これらに対して“何をしなきゃいけないのか”と考え、コミットし、結果を出すために実行するのが認知的な脳の仕組みです。一方で、非認知脳は意識が自分という内側に向く脳の働き。心情・感情の状態など目に見えない内側の部分になります。

 サッカーのPKの場面、「外したらどうしよう」と未来のこと囚われると迷いが生じます。まだ蹴っていないにも関わらず、緊張して不安になって……。うまくいかないケースの多くは、こういった認知脳の暴走が影響しています。

 ですので、選手たちにはそのときに自分が「認知的な状態」になっている事実を意識してもらいます。その上でどうするとよいかを考えます。大切なのは、自由である今という時間をきちんと意識すること。何よりも重要なのは、過去でも未来でもなく“今”なんです。PKを蹴るのは今ですから。過去や未来を切り離し、今、自分のできることを全力でするんです。

 また、仮に失敗したとしても「ご機嫌」であることが大切。失敗しても笑顔で次のプレーに向かっていく姿勢に切り替えるのです。そこで大事なのが周囲の反応。「PKで外してしまったのに笑っている」と理解するのではなく、「外してしまったけど、引き続き良いプレーをするために、次の今のために笑顔でいる」と理解すると前向きになれる。

 この考えがチーム全体に浸透すると、皆が 「ご機嫌」でいられるんです。当時のV・ファーレン長崎では、出場選手やベンチ内外の選手、マネージャー、スタッフ、経営陣ら全員が自分のすべきことを実践し、“ご機嫌”でいる価値を共有する環境を作り出しました。