一線を越えたバッハ会長の言動
昨年11月、中国の女子テニス選手・彭帥さんが、中国共産党の元最高指導部メンバーから性的関係を持つよう強要されたなどと告発した後、一時、行方不明が懸念される状況となった。
その時、IOCはバッハ会長が彭さんとテレビ電話で話したと発表し、笑顔で画面に映る彭さんの写真も公開された。
しかし、IOCは中国の人権問題への批判の高まりを避けたと厳しく非難された。女子テニス協会(WTA)のスティーブ・サイモン最高経営責任者(CEO)は「彭選手が自由で安全で、検閲や強制、脅迫を受けていないか重大な疑問を抱いている」と表明し、「2022年に中国で大会を開催した場合、選手やスタッフ全員が直面し得るリスクを大いに懸念している」と述べた。
バッハ会長は、中国の人権侵害、言論弾圧的な姿勢を容認するかのような発言もした。北京五輪大会組織委員会が「中国の法律や規則に違反する行動や発言は特定の処罰対象となる」と述べ、大会期間中のアスリートの「自由な言論」を取り締まると警告した(本連載第291回)。これに対して、バッハ会長は「俳優はハムレットの劇中に抗議活動をしない。選手も組織が作ったルールを順守しなければならない」と発言し、組織委員会の方針を認めたのだ。
バッハ会長は、東京五輪時には「ぼったくり男爵」とやゆされていたが、IOC会長として節度を保った発言はしていた。ところが、北京冬季五輪では、会長の言動は一線を越えてしまったのだ。
東京五輪で日本は叩かれ学び、北京五輪で中国はゴリ押し
東京五輪では、過去の言動を理由に、開会式で楽曲を担当していた小山田圭吾氏、文化イベントに出演予定の絵本作家・のぶみ氏が辞任、開会式ショーディレクターの小林賢太郎氏が解任される事態となった。
次々と大会のクリエイターが辞めていく事態に、大会組織委員会が「身体検査」が甘すぎたと批判された。しかし、私は「逆身体検査」のような人選になっていたと主張した。人権侵害、人種差別、民族蔑視などに反対してきた人や、女性、LGBT、障がい者などの権利拡大に熱心に活動してきた人たちをむしろ「言動が危険な人物」として、クリエイターの候補者から外してきたのではないかということだ(第281回)。
しかし、日本の問題は、人権問題に取り組んでいないわけではなく、その対応が「Too Little (少なすぎる)」「Too Late(遅すぎる)」「Too Old(古すぎる)」であることだ(第294回・p3)。