いざという時に、データを無視して論理が飛躍する日本

 これは何もコロナ禍だけの話ではない。過去30年、政府は「日本企業の99.7%を占める中小企業が成長をすれば、日本経済も成長をする」というロジックで、中小企業に対して積極的なバラマキをしてきた。しかし、賃金は上がっていない。

 中小企業白書2021年版の「企業規模別従業員一人当たりの付加価値額(労働生産性)の推移」を見てみても、中小企業の生産性は03年から19年まできれいに横ばいだ。この16年間、「ものづくり補助金」だなんだとさまざまなバラマキ政策を進めてきたのにもかかわらず、まったく効果が出ていない。

 という話をすると、積極財政派の皆さんは「それはバラマキの量が足りないからだ! けた違いに金を刷って配れば経済成長する」というようなことを主張する。ほんのちょっとでも動きがあるのならまだ分かるが、これまで「効果ゼロ」なのに、なぜ「もっと増やせば効果がある」という話になるのかは理解に苦しむ。

 そのあたりは、前政権の「経済ブレーン」も指摘している。バブル期の銀行アナリスト時代から30年にわたって、日本経済を分析してきたデービッド・アトキンソン氏は、人材への投資など明確な目標を持つ政府支出は必要だとしつつ、「インフレ率2%目標を達成するまで財政出動すべきだ」といった抽象的なバラマキ政策には賛同できないとして、このように述べている。

<1990年代に入ってから、日本政府は1000兆円以上の負債を増やしてきたにもかかわらず、GDPが横ばいで成長していない事実を深く考えるべきです。今まで政府支出を大きく増やしてきたのにGDPが成長していない中で、なぜ今「財政出動をすればGDPが成長する」と言えるのか、大変疑問に思います>(東洋経済オンライン22年2月3日

 ただ、アトキンソン氏はご存じないかもしれないが、こういう論理の飛躍は、日本ではそれほど珍しくない。「国難」を前にすると、それまで積み上げた客観的なデータがスコーンとどこかへ飛んでいって、どこからともなく、自分たちの都合のいい解釈が登場して、それにみんなが飛びついて大惨事――。ということが幾度となく繰り返されてきた。