世界は戦後、米国を中心とする資本主義陣営とソ連を中心とする共産主義陣営に分かれた。

 欧州も、米国側の西欧と、ソ連側の東欧に二分された。そして、両者の境界となるドイツは、米国側の西ドイツ、ソ連側の東ドイツに分断された。

 しかし1989年にベルリンの壁が崩壊し、1990年には、「東西ドイツを再統一しよう」という動きが活発になってくる。

 こうした中、米国は、「東西ドイツの統一を認めるか」とソ連に尋ねた。

 すると、ソ連のゴルバチョフ大統領は、「統一ドイツより東にNATOを拡大しない」という条件を提示。そこで米国は、NATOの不拡大を約束した。

 だが、1991年12月にソ連が崩壊すると、ゴルバチョフとの約束はあっさり破られ、米国は「反ロシア軍事同盟」NATOを拡大していく。

 ソ連崩壊時に16カ国だったNATO加盟国は、現在30カ国まで増えた。

 新しい加盟国には、かつてソ連領(ロシア人に言わせるとロシア領)だったバルト三国も入っている。

 そして米国は、ロシアの西の隣国で旧ソ連の国ウクライナや西南の隣国で同じく旧ソ連のジョージアも、NATOに加盟させようとしている。

 そのため、プーチンは、反ロシア軍事同盟の膨張を止めようとしているのだ。

 だが、NATOの拡大は今に始まったことではない。

 にもかかわらず、なぜプーチンは、今になって大軍をウクライナ国境に送ったのだろうか?

 プーチンの狙いは、本人と側近以外は誰にもわからないだろうが、筆者は「米中覇権戦争が激化していることと関係がある」と見ている。

 米国は、中国との戦いで忙しい。

 中国とロシア、両国を同時に敵に回すことはできないから、「今なら譲歩を勝ち取れる」と予想したのだろう。

 そして、ロシアは米国のみならず、欧州、NATOとも交渉を始めた。

 昨年12月8日にバイデンとプーチンのオンライン会談が行われた後、幾度となく交渉が繰り返されてきた。

 しかし、プーチンは望む結果、すなわち「ウクライナをNATOに入れない法的保証」を得ることができていない。