連携の取れない欧州、外交に集中できない米国
勢いづく中国、日本も渦中へ

田原総一朗田原総一朗(たはら・そういちろう)
1934年、滋賀県生まれ。1960年に早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。1964年、東京12チャンネル(現・テレビ東京)に開局とともに入社。1977年にフリーに。テレビ朝日系「朝まで生テレビ!」等でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。1998年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ「城戸又一賞」受賞。早稲田大学特命教授を歴任(2017年3月まで)、現在は「大隈塾」塾頭を務める。「朝まで生テレビ!」「激論!クロスファイア」の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数。近著に『堂々と老いる』(毎日新聞出版)、『新L型経済 コロナ後の日本を立て直す』(冨山和彦氏との共著、KADOKAWA)など。 Photo by Teppei Hori

 ウクライナのゼレンスキー大統領は、NATO(北大西洋条約機構)への加盟を望んでいる。プーチン氏としては、1991年にソ連は解体され、その多くの国を西側が取っていった。「西側は、さらにウクライナまで取るのか」という思いであろう。

 今回の軍事侵攻は、何より、プーチン氏の政権が危うくなってきていることを示している。西側に強硬姿勢を示すことができず、ウクライナがNATOに加盟することになれば、プーチン氏の地位は落ち、政権崩壊へとつながるだろう。それを恐れている。

 ロシアの軍事行動へ対抗するにも、ヨーロッパの国々はバラバラだ。NATO側は連携が取れていない。ヨーロッパは、天然ガス消費量の約3分1をロシアからの輸入に頼っている。特にドイツはその中でも突出している。つまりドイツは、エネルギーをロシアに依存しているのだ。

 一方アメリカは、バイデン大統領の支持率が低すぎる。このままいくと11月8日に行われる中間選挙では民主党が大敗するだろう。民主党内部の分裂も激化している。だから、バイデン氏はなかなか外交に集中することができない。バイデン氏は果たして何ができるか? 対応に失敗すれば、バイデン政権は終焉(しゅうえん)を迎えるだろう。そこで再び出てくるのがトランプ氏だ。

 プーチン大統領は、こうした欧米の状況を見通して今回、軍事行動に踏み切っている。

 ロシアのウクライナ侵攻が成功し、欧米の求心力低下が明らかになれば、中国が勢いづく。ロシアのウクライナ侵攻は、中国による台湾への軍事侵攻をも誘発しかねないのである。トランプ氏の再登場と「台湾有事」の可能性。そういう意味でも、日本にとって対岸の火事ではまったくないのだ。