電車内で液晶モニターを使って動画を流す映像広告が、広告主から引っ張りだこの状態だ。

 JR東日本の「トレインチャンネル」は半年先まで広告枠がすべて埋まっている。液晶モニター付き新型車両の導入に伴って2002年4月から山手線で放映を始めたトレインチャンネルは、2005年4月に山手線全52編成で放映されるようになり、広告媒体としての認知度が向上。2006年12月には中央線快速、2007年12月からは京浜東北・根岸線でも1部の車両で放映が開始された。広告料金は時期によって異なるが、番組の合間に流すスポットCMで240万円(1週間)から、番組提供型の広告は1300万円(4週間)からと高額だ。

 それでも広告出稿が引きも切らないのは、満員電車の中ではいやでも目に入るし、車両運行状況やニュース、天気予報などの情報も流しているので、「乗客の注目率が非常に高いから」(JR東日本企画)という。今年4月からはスポットCMを1本20秒からテレビCMと同じ15秒に短縮化、番組も1本70秒から60秒にするなどして広告枠を増やす予定だ。

 車両広告や駅構内の看板・ポスターなどJR東日本の広告売上高は2006年度で約570億円。ここから代理店手数料などを差し引いた374億円(前期比3.3%増)が実際にJR東日本の懐に入った。これがほぼ真水の利益となるのだから、トレインチャンネルのシステム整備だけで「延べ30億円は超えているはず」(大手私鉄関係者)と見られる設備投資も決して惜しくはないはずだ。

 首都圏の私鉄では東京急行電鉄がトレインチャンネルと同様の車内映像広告を2004年4月から展開しており、こちらも「広告枠は常に90%以上が埋まり、3月や12月などの需要期は申し込みを断っている状態」(東急電鉄情報・コミュニケーション事業部)。西武鉄道も来年度から西武池袋線・新宿線で導入する予定だ。

 広告市場全体が低迷するなかで、交通・屋外広告の伸びが目立っている。テレビ・新聞などマスコミ4媒体の2007年の広告費は前年比2.6%減の3兆5699億円と三年連続で落ち込んだのに対し、交通・屋外広告は2.3%増の6632億円となり、5年続けて前年実績を上回った(電通調べ)。

 NHK放送文化研究所の「国民生活時間調査」によれば、国民1人当たりの平日のテレビ視聴時間が40代以下のすべての年齢層で減少する一方で、外出時間は増加傾向にある。このため大手広告主のあいだでは、広告予算配分の見直しを図る動きが目立っている。

 飲料メーカー最大手の日本コカ・コーラは昨年、テレビへの広告出稿費を30%カットする一方で、交通・屋外広告などへの予算配分を増やした。世界的にグループとして広告戦略を見直す流れのなかの動きで、結果として主力ブランド「コカ・コーラ」の販売額の前年比10%強という高成長に寄与したと見ている。

 鉄道輸送量が頭打ちとなるなか、広告収入は大都市圏の鉄道各社にとってますます貴重な財源となりそうだ。

(『週刊ダイヤモンド』委嘱記者 田原寛)