超有力プレーヤーが参戦し空気が変化
膨らんでいく課金額

「戦争ゲーム」であるから、コテンパンにやられることがある。そしてこちらを打ち負かす相手とは、大体がこちらより多く課金しているプレーヤーである。負けず嫌いの筆者はやられたことで怒り心頭に発し、自分のキャラを強化するために月5000円という大幅な課金を行った。

 ギルド内1位のライバルも同じようなもので、他ギルドに負けまいと課金を続けていった。そして一度5000円のラインが出来上がってしまうと、今度はそれ以下の課金額では満足してプレーできなくなってしまうのであった。

 そのまましばらくして3カ月ほどたった頃であろうか。ギルドの方向を左右する大きな変化があった。王国ランキングトップ5に入る超有力プレーヤーがギルドに加入してきたのである。この人はゲーム経験者で、他にメインのアカウントを持っていたが、新しく始めたアカウントでこの王国で遊んでいるとのことであった。筆者と筆者のライバルは、このプレーヤーに大差を付けられて2位、3位となった。

 ギルドの誰かが課金をすると、宝箱のボーナスがギルドメンバー全員に配布される。それをもってメンバーは誰かが課金をしたことを知るのだが、なんとなく「課金は恥ずかしいこと」という空気があったので、宝箱ボーナスは“匿名”で贈られるのが常であった。課金するプレーヤーは「宝箱を匿名にするか否か」が選択できるのである。

 しかし、この超有力プレーヤーは“匿名”機能をオフにしていた。だからこの人が課金をすると、実名入り宝箱がギルドメンバーに配られる。それも、ものすごい額を課金するので、大量の宝箱が配られるのである。

 筆者は「すごい」「異次元の金遣い」と思い、また匿名でないことを「潔い」とも感じた。ほかのメンバーも、そう感じたのであろう、ちらほらと、自分が課金する際に匿名機能をオフにする人が現れ始めた。筆者も比較的早い段階で、匿名機能をオフにした。

 変化はこれだけではなかった。有力プレーヤーの課金量を見ていると金銭感覚がマヒしてきて、自分のちょっとした課金なんぞは許される気がしてくるのである。

 課金はそもそも、「ゲームが充実するだけの空虚なもの」という後ろ暗い罪の意識を伴うものであったが、金銭感覚のマヒにつれて罪の意識も鈍化する。また、その有力プレーヤーが極めて立派な紳士だったのもあって、「あの人があれだけ課金しているのだから、自分だってもっと課金したところでなんら異常ではない」と、多くのメンバーは思ったのではないか。かくして罪悪感の鈍化と自己正当化が推し進められ、ギルド内の総課金額は急速に増えていった。