化学療法中のリハビリ、腫瘍の縮小率が上昇写真はイメージです Photo:PIXTA

 リハビリテーション(リハビリ)は術後の機能回復訓練と思われているが、近年は回復のための体力を事前に養う「術前リハ」が行われ始めている。

 たとえば、がんの手術前に術前リハを行うと術後の合併症が減り回復が早まる効果が期待できる。

 さらに動物実験では、抗がん剤治療中のリハビリで、薬の効果が増強されることもわかってきた。

 そこで、英国の研究チームは、ステージII以上の進行食道がんの腫瘍を、手術前にできるだけ小さくする「術前化学療法(NAC)」を受ける患者について、リハビリ群21人と標準的な生活指導群(標準群)の19人にわけ、リハビリの効果を確かめている。

 リハビリ群は、世界保健機関が推奨する150~300分/週の有酸素運動と週2日以上の筋力トレーニングを、抗がん剤治療中から手術前日まで続けた。平均期間はおよそ5カ月間だった。

 一方、標準群は、食生活の注意や禁煙など通常の生活指導が行われ、身体活動の制限はしなかった。

 効果を確認するため、対象者はNAC前後と手術後に血液検査と画像診断を受けている。

 進行食道がんに対するNACは、術前に腫瘍をできるだけ小さくする「ダウンステージ」を目指して行われる。切り取る範囲が小さくなるほど生存率の改善や機能喪失を免れる可能性が高まるわけだ。

 分析の結果、腫瘍の縮小率はリハビリ群75.0%、標準群は36.8%でリハビリ群が高かった。リンパ節の転移の消失を含むダウンステージ率も、リハビリ群43.0%、標準群16.0%と差がついている。さらに、リハビリ群では免疫機能の改善も認められた。

 研究者は大規模試験での追試が必要としながらも「がんの標準治療に治療中のリハビリを組み入れる議論をすべき」としている。

 抗がん剤投与中のリハビリは、がん治療のなかで最も遅れた分野だった。しかし、今は国内でも積極的に実施する動きが出ている。

 抗がん剤治療中に身体を動かすのはおっくうだが、効果を高める可能性があるなら試す価値はありそうだ。専門医の手を借りてみよう。気晴らしにもなる。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)