なぜ陰謀論にハマってしまうのか
「世界線」を持ち出して肯定する人たち

 それにしても、なぜこういった陰謀論にハマる人が出るのだろうか。雨宮氏は、多くのきっかけは「孤独」や「仲間づくり」ではないかという。

「神真都Qのデモに参加する人を見ると、まるでオフ会のような雰囲気で参加者同士が話していました。40〜60代の参加者が多いように見えたのも印象的でしたね。仲間が欲しくて、サークル感覚で参加している人も少なくないでしょう。ただしそれが過熱して、科学的根拠のない情報を広める、多額のお金を支払うといった事態になるのは問題です」

 さらにここ数日、神真都Qのメンバーがワクチン接種会場に押しかけて妨害行為を行うなど、活動はエスカレートしている。支持者はそれだけ神真都Qの唱える説にのめり込んでいるといえる。

 とはいえ、これらの陰謀論は“暴論”と思うものも多く、その説に染まる人が一体どんな過程で陰謀論を「正しい」と思い始めるのか。そのプロセスは想像しにくい。

 この観点で雨宮氏は、最近、陰謀論者の間で自分の論理を正当化するために使われる手法のひとつとして「世界線の移動」があるという。

「世界線の移動とは、パラレルワールドと同じ考えで、この世界と並行して別の世界があり、そこに移動するということです。たとえば陰謀論者の主張が現実化しなかった場合、それは自分の論理が間違っていたのではなく、違う世界線に移動したからだと主張するのです」 

 もちろん、多くの人は「別の世界なんてあるわけない」と思うはず。そこで、陰謀論者が説得材料として持ち出すのが「マンデラエフェクト」という現象だという。

「マンデラエフェクトとは、多くの人が事実と異なる記憶を持っている現象を指す言葉です。たとえば『ピカチュウの尻尾の先は何色?』と聞かれて、黒と答える人も多いはず。でも実際には黄色です。こういった、たくさんの人が記憶違いをしている現象を言います」

 マンデラエフェクト自体は、陰謀論とは関係ない。単に人間が記憶違いしやすい事象に名称をつけただけだ。しかし、陰謀論者はこれを世界線移動の“根拠”に使うのだという。

「つまり、その記憶違いは“勘違い”ではなく、もともとその人は別の世界線にいて、途中で移動してきたというのです。ピカチュウの尻尾を例に取るなら、尻尾の先が黒いのは勘違いではなく、それが事実だった世界線にいて、途中で尻尾が黄色い世界線に移動したのだと。こうなると、どんな主義・主張でも世界線の移動で片付けられてしまいます。

 マンデラエフェクトとパラレルワールドを結びつけること自体は、以前からスピリチュアルの世界で行われていました。スピリチュアルに関心のある人たちでも陰謀論に関心のない方もいます。こんな形で都合良く陰謀論に使われてしまうとは、彼ら、彼女らからしても迷惑な話だと思います」

 この話については雨宮氏のnoteに詳細な説明が記されているので、興味のある人は見てほしい。「世界線の移動といった主張が引き起こすのは“議論の無効化”です。理詰めで説得しようにも、その議論が成立しないからです」とのこと。確かに、このような論理を使ってまで陰謀論を正当化するのなら、説得は難しくなるだろう。

陰謀論が命を左右することも
その情報が正しいか判断する力を 

 陰謀論において雨宮氏が警戒するのは、「こういった陰謀論の手法を駆使して、科学的根拠のない医療や治療法を勧める人がいること」だ。

「その情報により、命を落としてしまう場合もあるのです。陰謀論が人の命を左右することを忘れてはいけません」

 このような話をすると、必ず「だまされた人が悪い。自業自得だ」という声が聞こえる。しかし、そういう人は現実を捉えきれていないのではないか。たとえば自分や家族、大切な人に命の危機が訪れたとき、本当に冷静でいられるか。ワラにもすがる思いで、さまざまな言説を信じてしまうかもしれない。希望を見いだしてしまうかもしれない。そこに落とし穴がある。

 コロナ禍に巻き起こった陰謀論の根底にも、人々の不安や孤独がある。だからこそ、強く警鐘を鳴らさなければいけない。さまざまな情報があふれるこの時代、私たちはその情報の「真偽」を冷静に判断する必要がある。