いま、注目を集める研究会がある。わずか2年で約1000人規模へ拡大し、東大新入生の20人に1人が所属する超人気研究会に成長した、「東大金融研究会」だ。創設者は外資系ヘッジファンドに20年在籍し、超一流の投資家として活躍してきた伊藤潤一氏。東大金融研究会ではお金の不安から自由になり、真の安定を得るために「自分の頭で考える」ことを重視している。世の中に溢れる情報や他人の声に振り回されず何が正しいのかを自分で判断し、物事を本質的に理解し、論理的に思考を展開することで、自立した幸せな人生を歩むことができるからだ。本連載では、東大金融研究会の教えを1冊に凝縮した初の書籍『東大金融研究会のお金超講義』から抜粋。頭のいい人だけが知っている「お金の教養と人生戦略」を紹介する。

「勝てない相場」で歴戦のプロ投資家はどう動くのか【東大生が投資家に学ぶお金の教養】Photo: Adobe Stock

日経平均3万円台への回復を、プロ投資家はどう判断するか

コロナ禍の中、世界の株式市場は大きく上昇し、2021年2月には日経平均株価が30年ぶりに3万円台を回復したことが大きなニュースになりました。

しかし、長年にわたり責任を負ってファンド運用を行ってきたプロの投資家の中には、この株価上昇局面で売却に動いた人がたくさんいました。

従来、株式投資はまず企業のファンダメンタルズをチェックし、さらにマネジメントのクオリティを確認し、そのうえでバリュエーション(企業価値評価)を見て買うかどうかを判断するのが王道でした。業績がよく、経営者の質が高かったとしても、株価がその企業の価値に照らして割高だと判断される場合には買わないのです。

ですからコロナ禍の中、株価がバリュエーションを無視して上昇を続ける局面で、「王道の投資」をしてきたプロの投資家は株を売るという判断を下すことになったわけです。私も、そのうちの1人でした。

しかし、歴戦のプロ投資家がどんなに株を売っても、株価は上昇しつづけたのです。これはなぜだったのでしょうか?

もちろん、根本的な背景には世界の中央銀行の金融政策や政府の財政政策があります。

コロナ禍によって世界のGDPが大きく毀損され、多くの国で戦後最悪のGDP成長率となる中、経済収縮をおそれた各国の中央銀行は金利の引き下げや量的金融緩和を実施し、さらに財政刺激策を次々に打ち出しました。市場に大量の資金が供給され、世界がお金で「じゃぶじゃぶ」の状態になったわけです。

しかし世の中が疲弊する中、本来は企業に投資を促して経済を好転させるためのお金が実体経済に向かうことはなく、溢れかえったお金は株式や債券、金、不動産などの投資先に流れ込んでいきました。

このような背景で株価は上昇を続け、バリュエーションを重視する投資家がとても買えない水準になってしまいました。

一方、プロ投資家の中には、この状況下で株を買う選択をした人もたくさんいました。彼らは、「バリュエーションはもう死んでいる。じゃぶじゃぶのお金が株式市場に流れ込む以上、業績さえ悪くなければ買えばいい」と考えたのです。

コロナ禍の中、実は投資家の中ではこうした二極化が起きていました。そしてこのような現象は、不動産マーケットでもVC(ベンチャー・キャピタル)マーケットでも同様に見られました。

結果を見れば、確かにバリュエーションは死んだようにしか見えず、株価はその後もさらに上昇を続けました。私のような立場をとる投資家にとって、これは「勝てない相場」でした。