だが、電機業界の魅力がなくなったのかといえばそうではない。
「特に理系の技術職採用においては、電機業界の就職動向は、親世代と子世代で、実は大きく変わっていない」と事情を説明するのは、かつて自身がソニーに在籍していた早稲田大学大学院経営管理研究科教授の長内厚氏だ。
バブル後の動向を見ると、一部の企業を除き、電機業界の人気は全体として浮き沈みなく安定していたという。電機業界には、もともと商社や金融ほど華やかなイメージがなく、世の中のトレンドに流されない優秀な学生が集まっていた。苦境の時代に入ってから、かえって「本当に電機が好きな人」が集まる傾向が強まった。
「流されない人々」が
電機業界の屋台骨を支えた
日本の製造業は、歴史的に新しいものを生み出すことがうまい。「周囲にいわれた仕事をこなすより、自分のやりたいことや面白いアイデアを持った人が集まりやすい風土があった」(長内教授)。そうした人材が業界の屋台骨を支えてきたのだ。「新しい価値の創造に挑戦したい」と考える学生にとっては、魅力的な職場といえる。
ただし就活時の業界研究では、電機業界の現状と、対応すべき課題について、しっかり分析しておく必要がある。希望の会社に就職できても、動きが激しいビジネスで求められる人材に成長するためには、発想を変えなくてはいけないこともあるからだ。電機業界の課題とは何か。
これまで電機メーカーは、とりわけ家電分野において多くの商品を展開してきたが、それが競争力を弱める一因になった。競合の海外メーカーは、選択と集中により特定の分野に経営資源を投下して市場を席巻し、シェアを奪った。
さらに、電子機器の基本性能が向上して差別化が難しくなる中で、「いいものをつくれば売れる」という技術神話も揺るぎないものではなくなった。日本企業と対照的なケースとしてよく引き合いに出されるのが、米アップルのビジネスモデルだ。同社は製品の製造を外部に委託し、自社では流通に力を入れてユーザーにブランドを訴求し、成功を収めた。自分たちにはない発想の前に、電機各社は得意とする音楽再生機器や携帯電話で苦戦を強いられた。