放射線治療の課題は
「適切な量」のさじ加減にあった

 放射線治療の最大のメリットは「切らずに治せる」ことだ。

 声を失うなど手術がもたらすデメリットが大きい喉頭がんの場合、放射線治療なら、手術と同等にがんが治り、さらに90%以上の可能性で声を守ることができる。切らずに治す放射線治療には、体へのダメージが少なく、臓器の形や動きを守ることができるという大きなメリットがある。

 さらに、治療に伴う「痛み」もない。

 従来の治療でも1日1回・週5回、1回に10分ぐらいの照射(放射線が出るのは1~2分ぐらい)を30~35回受ければ治療は終わる。機械が直接体に触れることはないし、照射中は何も感じない。

 ただし、副作用の心配はある(というか、あった)。

 放射線治療ではX線、電子線、粒子線といった放射線を腫瘍に照射することでがん細胞を破壊する。放射線が持つ細胞内のDNAを傷付ける性質を利用してがん細胞にダメージを与え、死滅させるのだ。

 がん細胞は少しでも残っていると再度増殖してしまうので、放射線は全てのがん細胞に照射しなければならない。従来は、そこに副作用が伴った。治療装置の性能上、周囲の正常な細胞にも放射線を当てざるを得ないからだ。

 怖いと思うかもしれないが、正常な細胞はがん細胞に比べて傷の修復力が高いので、正常細胞が回復するための時間を待って、“適切な量の”放射線を繰り返し照射すれば、正常な細胞へのダメージは最小限に抑えつつ、がんを死滅させることができる。

 手術で治療する場合でも、肺や胃など臓器の一部や全部を取り除かなければならないし、抗がん剤治療に厳しい副作用が伴うことはよく知られている。それらと比べれば、放射線治療の副作用はかなり小さい。

 従来の放射線治療は、正常な細胞へのダメージを最小限に抑えられる“適切な量”と、がん細胞をしっかりと死滅させられる“適切な量”を両立させるための、難しいさじ加減を工夫しながら行われてきた。

 エレクタユニティは、そうした困難を解消し、適切な量の両立を可能にさせる装置なのである。

“温州みかんの薄皮”の
精度で病巣を狙い撃つ

 最大の特徴は、がんの周囲の正常な細胞を避け、病巣のみを狙い撃ちできる精度だ。

 従来の治療装置では、事前(1週間ほど前)に撮影したCT画像をもとに病巣を狙い撃ちしていたが、エレクタユニティを用いた治療ではMRIによって治療直前および照射中に病巣を可視化できるため、リアルタイムでその日の腫瘍と重要な臓器の位置や輪郭を正確に把握しながら照射することができる。

 これがどれほど重要なことか、ちょっと想像してみよう。

 人間の体の中は、ジッとしているときでさえ絶えず動いている。呼吸や姿勢の変化に伴っても動くし、ぼうこうに至っては、刻一刻と尿がたまっていくので一時として同じ形状であることはない。そのためこれまではどうしても病巣の位置が動くことを考慮して、事前にCTで撮影した病巣の周囲に10~20ミリの“のりしろ”を確保し、範囲を広げて照射しなければならなかった。

 病巣が重要な臓器に隣接している場合には、少なからぬ副作用が懸念されるため、がんを治すのに十分な線量を照射するのも難しく、早期がんであっても放射線治療を第一選択肢にすることはできなかったのである。