採用で性別さえ聞かない
徹底した姿勢

 まず、多様性重視の象徴的な事例が、採用方針である。ジョブ型(プロフェッション型)採用なので、応募する側には年齢、性別、経験年数といった属性は問われない。重視されるのは、自分が応募したジョブにきちんとコミットできるスキルを持っているか、成長できるポテンシャルがあるか否かだけだ。

 徹底しているのは、選考で相手の性別さえも聞かないこと。理由は、「相手が女性に見えても、本人が自分を女性だと感じているとは限らないから」(谷本氏)。採用面接で面接官は、ノートに「彼」「彼女」といった性別に関わる書き方をせず、必ず個人名で記すという。誰にでもフェア・オポチュニティ(機会均等)を提供するために、極力バイアスがかからない選考様式を心がけているのだ。

 社員は入社後も、公平性や個を尊重する風土を強く感じることができる。職場では、年功序列や業務の優先順位はない。キャリア形成がジョブ型で、自分が自分の異動を選び、人事部から異動を命じられることもない。メンバーシップ型の採用で、入社してから異なる部署への異動を繰り返す日本企業の働き方とは、コミットメントの質が違うのだ。

「上司が部下に仕事を任せ切り、部下が上司におうかがいを立ててばかり、といった風土はグーグルにはない。上司は現場でプレイングマネジャーを続けながら、役職が上がるほど部下と一緒にいろいろなことを考えなくてはいけない」(谷本氏)

 一方で、社員の評価においても公平性・透明性が担保されている。グーグルには「社員がお互いをリスペクトする」というバリュー(価値観)があり、全ての社員の多様性を認め強みを生かすというポリシーが、人事制度の根底に流れている。

 現場ではOKR(Objectives and Key Results)という目標管理手法がとられている。これはプロジェクトメンバー間で目標を立て、それを実現するための具体的な指標を計測していくもの。「今あるものを何倍にもするためには、何を目指せばいいのか」を課題に据えて各セクションで描かれた目標が、全体の目標へと繋がっていく仕組みだ。

 現場ではその目標に対し、上司と部下の間で多い場合は毎週のように1on1ミーティングが行われ、「仕事が今どの段階にあり、目標達成にはどんな修正が必要なのか」が日常的に話し合われている。これは後の評価において、評価者と被評価者の間の意識ギャップを低減することに寄与している。