3つに分類される
企業向け哲学コンサル

 不確実で不透明な世界情勢の中、持続可能な社会の構成員として企業に求められる役割は大きい。その一助となる哲学コンサルは、大きく3つに分類できる。

 具体的には(1)倫理的配慮や炎上防止などリスクヘッジとしての哲学コンサル、(2)ポジティブな倫理の探求としての哲学コンサル、(3)自社の世界観を明らかにするための形而上学的・思弁的なレベルでの哲学コンサルである。それぞれについての吉田氏の考察はこうだ。

「リスクヘッジとしての哲学コンサルは、倫理的な配慮を欠いたことによる不利益を被らないようにするために行います。日本で倫理というと、『○○してはいけない』『○○しなければならない』といった具合に活動を外的に規制するルールや道徳訓のように受け取られがちです。実際、法令順守は各企業が懸命に取り組んでいる部分です。しかし、ここでいう哲学・倫理とは、法令順守に限りません。むしろ、『何が善くないのか』を考える場面でこそ、批判的な機能を持つ哲学コンサルが有効に働きます。

 次にポジティブな倫理の探求としての哲学コンサルですが、これはさまざまなジレンマを踏まえて『善いこと』を導き出すためのものです。例えば近年、大手の化粧品会社で、既存の製品から『美白』などの表現を削除する動きが広まりました。美白には、人種差別的なバイアスが潜在的に含まれるからです。当たり前のように受け入れられていた前提を疑って、『何がほんとうに善いことなのか』を追究し、製品や企業活動に反映させていくことは、積極的な倫理の探求といってよいでしょう。

 企業活動において売り上げ・利益と倫理とのジレンマに直面したり、従来の常識に流されたりしてしまうことは、多々あることです。そうしたとき『自分たちは何を善とするのか』を深掘りして言語化する支援は、哲学コンサルの仕事のひとつです。

 そして、『自社の世界観を明らかにする』哲学コンサルは、相対的な善悪を超えた理念構築の支援です。例えば、AIや遺伝子治療などの新興技術は、研究・開発・実装の場面において、まだ法制度が追いついていない領域です。ただ、米国では、法律が善しあしを決めてないところに踏み込んで新しい価値を提案し、自分たちで原則を作ろうとする姿勢がある。その根幹では自由を重んじる精神を感じます。一方、欧州は、予見的に悲劇を避けて研究開発やイノベーションを進めていこうとする傾向があります。それは人権や責任を根幹に置いているからでしょう。日本の企業活動においても、自社の根幹にどんな根源的価値を据えるのか、追究する必要性が出てきています」

 組織開発や人材育成、経営者コーチング、いずれにせよ哲学コンサルは、企業経営やプロジェクトにおいて、3つのレイヤーを中心に、問い、掘り下げ、言語化することを支援している。

 感染症のパンデミックやDXによって、企業に迫られるビジネスの進化。さらに社会的責任としてSDGsの取り組みにも着手していかなくてはならない。劇的に変わりいく世界、企業がどのようなビジョンやパーパスを掲げるべきかを考えるに当たっても哲学コンサルの活用意義があるのかもしれない。

吉田幸司
クロス・フィロソフィーズ(株)代表取締役社長。博士(哲学)。
上智大学哲学研究科博士課程を修了後、日本学術振興会特別研究員PD(東京大学)を経て、現職。日本で初めて「哲学」を事業内容にかかげた株式会社を設立し、哲学の専門知と方法論を生かした「哲学コンサルティング」を実施。上智大学非常勤講師、日本ホワイトヘッド・プロセス学会理事などを兼任。著書に『哲学シンキング』(マガジンハウス)などがある。