新型コロナ拡大を機に日本でも急速に広まった「テレワーク」。多くのビジネスパーソンが、WEB会議やチャットツールの使い方など、個別のノウハウには習熟してきているように見えるが、置き去りにされたままなのが「テレワークのマネジメント」手法だ。これまでと違い、目の前にいない「見えない部下」を相手に、どのように育成し、管理し、評価していけばよいのだろうか? その解決策を示したのが、パーソル総合研究所による大規模な「テレワーク調査」のデータをもとに、経営層・管理職の豊富なコーチング経験を持つ同社執行役員の髙橋豊氏が執筆した『テレワーク時代のマネジメントの教科書』だ。
立教大学教授・中原淳氏も、「科学的データにもとづく、現場ですぐに使える貴重なノウハウ!」と絶賛する本書から、テレワーク下での具体的なマネジメント術を、解説していく。
近年ビジネス界で注目されている“メタ認知力”とは
テレワークが増えてくると、普段よりいっそう「部下をきちんと観察する」ことが必要になります。そのためには、上司自身がメタ認知力をつけていくことがカギになります。
メタ認知力とは「自分自身を俯瞰して、客観的に観察する力」のこと。1976年にジョン・H・フラベルというアメリカの心理学者が提唱した心理学用語ですが、近年、仕事のできる人の特徴としてビジネスにおいて重要視され始めた資質です。
メタ認知力は「省察・内省・反省」「振り返り」を日々きちんとする習慣があるかどうかによって、大きく左右されます。
たとえば、慌ただしい状況のなかで部下に指示を出すことはよくあることですが、メタ認知力のある上司は、後で冷静になって「あの言い回しで本当に伝わっていたのだろうか?」「もっとうまいやり方があったのではないか?」と自分自身の行動を省みることができます。そして、それが周囲を観察することにもつながっていきます。メタ認知力をもっている上司の部下が「自分は放置されておらず、きちんと見てもらっている」という感覚をもつのはそのためです。
これまでのように出社していれば、自分が出した指示が部下にきちんと伝わっているのかどうか、目の前で見ることができました。指示を受けた部下の手が止まっていて、考え込んでいる様子だったら「あれ、わかっていないのかな?」と気付いて声をかけることもできましたが、テレワークだとそうもいきません。雑な指示を出しっぱなしで、部下は困ったまま長い時間を使ってしまっているかもしれません。
ここで上司にメタ認知力があれば「本当にあの指示で伝わっただろうか?」と振り返り、言葉足らずだと思えば、フォローの電話を入れることができます。そしてその1本の電話から、部下は「ちゃんと気にかけてもらっているんだ」という感覚を抱くことができるでしょう。上司がメタ認知力をもっていることは、結果的に部下の幸福感に直結するのです。
メタ認知力を鍛えるためによい場所
メタ認知力を上げる訓練としては、あらかじめ決めておいた時間と場所で自分を振り返る習慣をつけることが一番です。
たとえば、中国の宋時代の学者・欧陽脩は、『帰田録』という本の中で考え事に適した場所として次の“三上”を挙げています。現代にも応用できる話です。
・馬上
馬の上です。適度な揺れは脳を活性化させるので、乗り物に乗っている時間は考え事に向いています。これまで通勤電車に揺られる時間をこうした時間にあててきた人もたくさんいることでしょう。
・枕上(ちんじょう)
枕の上です。寝る前は心身がリラックスしている状態なので、昼間は気付かなかったことに気付くことがあります。
・厠上(しじょう)
厠(かわや、トイレのこと)の上です。ひとつの物事を深く考えるには狭い場所の方が向いているので、トイレはベストな場所でしょう。逆に、たくさんのことを大きなスケールで考えるには、広い場所の方が向いています。
拙著『テレワーク時代のマネジメントの教科書』では、メタ認知力をあげるトレーニングについても紹介しております。ぜひ、ご参考にしてください。