社員のキャリア自律、成長、イノベーティブな働き方を支える上で重要なのが、働き方の柔軟性だ。同社はもともと2012年から、在宅勤務制度を育児や介護などを抱える従業員を対象として導入していた。2013年には、同社としてのワークライフバランス像を労使で取りまとめ、仕事と生活の相乗効果を目指す「ワークライフシナジーの追求」を掲げた。2015年に在宅勤務制度の対象者を拡大している。

「こうした在宅勤務制度の導入の下地があったため、コロナ禍でも混乱はなかった」(矢野氏)。2021年には「新しい働き方」を提唱し、各部門、各自が最大限に生産性を高めて働けるように、1人ひとりが業務状況を勘案しながら自律的に在宅勤務と出社勤務(自宅、サテライトオフィス、出社)を組み合わせられるハイブリッドワークを推進している。将来的には居住地に縛られないリモートワークを活用した働き方も想定している。

男性の育休取得率は100%
育児・介護・治療の支援に本腰

 働きやすさに寄与するさらなる施策は育児、介護、治療における両立支援・復職支援だ。男性の育児参画については、2012年から舵を切りスタートさせてきたが、2015年以降、推進施策の効果から徐々に男性育児休職取得者が増え、2021年は育児休職取得率100%だったという。

 その他、保育園を探す「保活」の外部サポートを導入、またMRを対象とした仕組みとして、配偶者同居サポートプランや営業車を保育園の送迎に使える制度がある。2021年には、全社員を対象に介護リテラシー診断や介護リテラシー学習の機会を導入し、介護との両立支援を進めている。

中外製薬が社員の働きがいを高めた「やっぱり、人」という変わらぬ想いがんに関する就労支援ハンドブック

 とりわけ特徴的なのは、がん領域製品で国内シェアトップの同社ならではのがん治療と仕事の両立支援だろう。療養休暇や私傷病休職の取得を弾力的にし、長期入院だけでなく、化学療法など一定期間の通院による計画的な治療での休暇取得が可能になっている。

 こうした制度の整備による働きやすさが、前段の働きがいと相まって、「自己都合退職率は1%程度となり、特に結婚や育児といった理由での退職者は、耳にしなくなってきた」と矢野氏は言う。人の成長を支え、自律的な働き方をサポートすることで、会社のイノベーションに生かしていくという同社の確固たる姿勢が、さまざまな施策を通じて体現されている。