ウクライナ情勢が収束後も残る
企業のロシアリスク
もう一つは、今後仮にロシアが攻撃停止や軍の縮小・撤退などを行い、欧米が経済制裁を徐々に解除したとしても(その可能性は考えにくいが)、ロシアリスクは引き続き残るということだ。
ここで筆者が指摘したいロシアリスクとは、ロシアが再び拡張的な行動に出るという意味ではなく、世界経済におけるロシアのイメージ悪化を指す。
ジェトロが3月31日に発表した企業統計(ロシアに進出する企業211社のうち回答した97社が対象)によると、今後半年から1年後の見通しとして、撤退が6%、縮小が38%、分からないが29%、現状維持が25%、拡大が2%と半数近くの企業が脱ロシアの動きを示した。2月の調査で縮小が17%だったことから、その流れは急速に広がっている。
企業によってロシア依存度が異なるので、回答が分かれるのは容易に想像がつく。しかし、仮に情勢が落ち着いてきたということで通常の経済活動を再開したとしても、ウクライナへ侵攻したロシアの国際的イメージ悪化は残り続ける。
当然ながら、国家としてのロシアとロシア市民、ロシア経済を同一視すべきではないが、世界経済の中で活動する企業の経営という視点から考えると、即座の経済活動再開は諸外国企業との間で新たな摩擦を生む可能性がある。
たとえば、情勢が落ち着いた直後から日本のA社がロシアへ積極的な展開を示しても、欧米諸国のB社やC社はそれを良く思わず、以前から取引があるA社とB社、A社とC社の間で関係が冷え込むということが考えられよう。
これは、昨年新疆ウイグルの人権問題を巡ってバイデン政権が中国への制裁を強化し、企業の間で人権デューデリジェンスの意識が高まったことからも想像できる。
ユニクロを展開するファーストリテイリングは、新疆綿を使用しているとしてTシャツの米国への輸出差し止めに遭い、フランスの人権団体からは人道の罪を隠匿しているとして告発された経緯がある。
日本企業としては今後、こういった国際政治から生じる該当国へのイメージ悪化というリスクに対して、十分に配慮していく必要があろう。
(オオコシセキュリティコンサルタンツ アドバイザー/清和大学講師〈非常勤〉 和田大樹)