減点主義からの脱却については、現在取り組んでいる最中だ。以前はグローバルで共通となる人事の要件定義リストがあり、そこの項目を満たさないと次のステップに上がれないという評価運用がなされていた。また、3年以上ステップアップできない社員は会社にいづらくなるという「UP Or OUT」の風潮もあった。

 しかし、特定の分野で群を抜いて高い評価がつく人もいるため、従来のやり方では公平性が乏しい。そもそもこうした社内の要件定義は、顧客満足を最も重視する同社のポリシーと相反する。こうした減点主義的な発想から脱却するため、社員の価値をトータルで見るための新たな定義づくりに関して議論が続けられているのだ。

兎もいれば亀もいる
スキルアップを徹底サポート

デロイト トーマツ コンサルティングが社員の士気を急上昇させた「働き方改革」の中身米国デロイトユニバーシティのエントランス

 コンサルファームは実力主義ではあるが、執行役員クラスのパートナーならいざ知らず、プロの原石としての若手や中堅クラスの社員にまで同じ厳しさで臨むのは現実的ではない。

「兎タイプの人がいれば亀タイプの人もいる。これまでのコンサル業界では、上司の顔色をうかがい素早く行動することが得意な兎タイプの人が重用されてきた可能性がある」(長川氏)

 そこでDTCでは、社員のスキルアップをサポートするために、グローバルで多種多様な研修カリキュラムも用意している。特徴の1つが、原則として外部の研修に頼らず、社内のコンサル自らが講師として研修を開催すること。受講者側にとって机上で学ぶだけでなく、会話を通じて行動形態を学ぶ機会を多くしようという目的がある。仕事の機会損失が生まれる可能性があり、自己の評価にも繋がりづらいイメージがあるが、多くのコンサルが自ら情熱を持って講師を務める風土があるという。

デロイト トーマツ コンサルティングが社員の士気を急上昇させた「働き方改革」の中身米国デロイトユニバーシティの様子

 もう1つの特徴は、研修を「未来系」でデザインしていることだ。同社の発想は、足もとで必要なスキルを今日・明日で教えるのではなく、5年後・10年後に必要なスキルを先回りして教えるというもの。デジタル、グローバル、リーダーシップの3大領域で、未来のリーダーが身に付けるべき最先端のスキルを磨くためのトレーニング機会を社員に提供している。

 その象徴的な取り組みが、国内に建設を構想中のデロイトユニバーシティ(Deloitte University)という大学施設である。コロナ禍が収束した暁に、自社とクライアント、そして地域社会の人々が集まって学び合うことを目的とした、未来志向型の人材育成の場だ。そこでは、自社のコンサルと取引先の経営者らが合宿を行い一緒に戦略を立案するなど、ビジネスと研修のマッチングも企画されている。これは、コンサルと企業が共に未来を切り拓いていくという理念を込めた中期経営計画のスローガン「Lead the way」にも通じる考え方だ。