今回は大手飲料メーカー、伊藤園、サントリー食品インターナショナル、コカ・コーラボトラーズジャパンホールディングスの3社について、決算書を比較する。いずれも清涼飲料水を手掛ける3社だが、決算書からはビジネスの構造上の違いが見て取れる。またそうした違いが影響し、コロナ禍における3社の業績も明暗が分かれた。それぞれどんな特徴があるのか見ていこう。(中京大学国際学部・同大学院経営学研究科教授 矢部謙介)
ファブレス経営を推進し
有形固定資産が少ない伊藤園
今回は、大手飲料メーカーの決算書を比較してみよう。取り上げるのは、伊藤園、サントリー食品インターナショナル(以下サントリー食品)、コカ・コーラボトラーズジャパンホールディングス(以下コカ・コーラBJHD)の3社だ。
コロナ禍での外出減少により苦境が伝えられる清涼飲料業界だが、これら3社の業績はどんな状況なのか。また、それぞれの戦略にはどのような特徴があるのか。決算書から読み解いていこう。
下図は、伊藤園の2021年4月期の決算書を図解したものだ。
まずは貸借対照表(B/S)から見ていこう。伊藤園のB/Sの左側(資産サイド)で特徴的なのは、有形固定資産が約780億円と少ない点だ。売上高が有形固定資産の何倍に当たるかを表す有形固定資産回転率(=売上高÷有形固定資産)を今回取り上げる3社で試算してみると、伊藤園が約5.7回であるのに対し、サントリー食品は約3.0回、コカ・コーラBJHDは約1.7回となっており、伊藤園の有形固定資産回転率はずば抜けて高い。
伊藤園は緑茶のトップメーカーだが、自社で製造しているのは原料となる茶葉までであり、緑茶の抽出やボトリングは外部に委託する「ファブレス経営」を進めている。そのため、必要な設備投資が少なく、有形固定資産が少ない軽量型のビジネスモデルになっているのだ。