後閑:当初は外来に勤務していて、急性期の患者さんに対応することも多かったんです。病棟でたくさんの管につながれ、うつろな目でボーッと天井を見たまま意思の疎通ができない患者さんを大勢、看ていくうちに、「命を守る仕事」と思って頑張ってきたけれど、患者さんの行きつく先がこれなのか……と思うようになってしまいました。
生かされているだけで、生きているといえないのではないか、命を守るってこういうことなのだろうか、と悩み始めたんです。
それを、リストカットを繰り返しているある友人に話したら、どういう意図だったのかはわかりませんが、友人は、「リストカットすると、生きている感じがするんだよね」と言ったんです。それで私、自分でも手首を切ってみたんですよ。
かげ:え!?
後閑:そうしたら、切り過ぎちゃって、痛いし、すごく出血して。
でも、血が温かったんです。最終的に当時の勤務先の整形外科の医師に、縫ってもらいました。すごく丁寧に縫ってくれて、気遣ってくれて、先生優しいな、って思いました。「お前、何やってるんだ!」って叱られましたけど。ああ、生きてるって痛いんだ、温かいことなんだ、人の優しさに触れることなんだ、生きるって感じることなんだ、って思いました。
そして、管につながれた患者さんも、どこか痛かったら痛そうな表情をするし、体を洗えば気持ちよさそうな表情をしてくれる。それが「生きる」ということで、私はそれを支えるのが仕事だと思えるようになって、自己完結できたんです。
かげ:そうですね……。私、働き始める前は、医療現場は医師が中心で、看護師はそれを補佐する役割というイメージを持っていましたが、そもそも医師の仕事と看護師の仕事はやることが全然、違う。
医師も診察などを通して「患者さん」と向き合いますが、患者さんの抱えている「病気」に対して対応すること、つまり比較的、治療が優先となりやすい仕事。さらに処置したり検査結果と睨めっこしたりしなければなりませんから、患者さんに寄り添う時間を割くことが難しい面もあります。一方、看護師は治療を維持するために必要なあらゆることを行うのが仕事ですから、日常の生活支援も含めて患者さんと接する度合いが高く、自然と密度も濃くなります。
医師のすることは専門性が高すぎて患者さんにはわからないことが多いけれど、看護師のしていることはわかりやすい。だから、患者さんはおのずと私たち看護師を身近に感じて、ゆだねてくださるのだなと思います。