武田薬品,ロシア,ウクライナ,「武田薬品」の過去の巨額買収は失敗か?ウクライナ侵攻でロシア工場に接収リスクPhoto:123RF

 10年前に武田薬品が行ったスイス・ナイコメッドの買収は失敗だったのだろうか。2011年9月、武田はロシアや旧ソ連圏、東欧諸国など新興国市場に強みを持つナイコメッドを96億ユーロ(当時約1兆1000億円)で買収。翌12年にモスクワから280キロ北東のヤロスラブリに工場を開設し、本格的にロシア市場への進出を開始した。当時、社長だった長谷川閑史氏は、それまで進出できなかった新興国市場への販路が拓けるとし、「弱点であった部分が相当補強される」と買収に自信を見せていた。

 だが現在、ロシアによるウクライナ侵攻で、両国での事業に暗雲が立ち込めている。カントリーリスクに対する懸念は、買収当初から社内にあり、買収を諮った取締役会では長谷川氏以外の全員が難色を示していたとさえ言われる。確かにナイコメッドの買収により、武田が製品を提供する地域は28カ国から70カ国に拡大し、世界の製薬売上高ランキングは16位から12位に躍進した。

 一方で巨額買収の費用が利益を圧迫もした。長谷川氏は14年6月の株主総会で、株主からナイコメッドの買収を疑問視され、「失敗だったとの認識はまったく持っていない」と否定してみせたが、果たして現状からすれば、カントリーリスク、とりわけ戦争リスクを甘く見過ぎていたように思えてならない。