バリアフリー料金制度が
創設された背景

 そもそもこのバリアフリー料金制度はどのような背景で創設されたのか。国交省は2017年に「都市鉄道における利用者ニーズの高度化等に対応した施設整備促進に関する検討会」を立ち上げ、混雑緩和・遅延対策のための施設整備、より高い水準のバリアフリー施設の整備など、利用者ニーズの高度化を受けた設備投資の促進について検討を開始した。

 しかしこうした設備投資は多額の費用を要するにもかかわらず、必ずしも事業者の増収にはつながらないため、投資のインセンティブに欠ける。そこで受益者負担の観点から利用者に薄く広く負担してもらう新たな制度を創設し、安全性および利便性向上の早期実現を促進しようという狙いがあった。

 検討会は2017年7月から2018年8月まで16回開催され、「更なるバリアフリー化推進のための費用負担制度」と「混雑・遅延対策等の輸送サービスの高質化促進のための新たな仕組みの方向性」の二つが議論された。

 後者は「特定都市鉄道整備積立金制度」や「新線建設に係る加算運賃制度」など利用者に負担を求める制度が既にあるが、「混雑・遅延対策に限らず、輸送サービスの高質化に資する事業であって受益が一定の範囲に限定される事業」を対象に「受益が想定される範囲において、資本費等を回収するまでの間、加算運賃の設定を可能とする」仕組みの構築を目指すこととした。

 検討会は制度の具体化に向けた検討を深める必要があるとの結論を出したが、その後のコロナ禍で利用者が大幅に減少し、混雑や遅延が抑制されていることから議論がストップしている格好だ。

 一方、高齢化が急速に進展し、2025年度には人口の約18%が後期高齢者(75歳以上)となる中で、バリアフリーの拡充は喫緊の課題である。従来は改札からホームまで段差を解消した「バリアフリー1ルート」の整備が目標だったが、検討会は複数ルートや乗り換えルートの整備、エレベーターの大型化、ホームドアの設置なども対象とし、利用者が費用を負担する料金制度の導入を提言。コロナ禍以降も検討が継続し、ようやく実現したことになる。

 これまでバリアフリー設備と言えば高齢者と障害者のための設備との認識が強かったが、エレベーターはベビーカー利用や大きな荷物の運搬時に使えるし、ホームドアは全ての人にとって安全性の向上になる。なにより健常者であっても突然、ケガや病気で交通弱者になる可能性はある。そのため税金による福祉政策としてではなく、全ての利用者が受益者であるとして等しく負担を求めることになった。

 バリアフリー関係設備投資には、「地域公共交通バリア解消促進等事業」や「鉄道駅総合改善事業」など、国と地方自治体がそれぞれ事業費の3分の1を上限(ただし国の補助は地方自治体と同額まで)として負担する国の補助制度と、地方自治体の補助制度、例えば東京都は「東京都鉄道駅総合バリアフリー推進事業費補助金」などが存在する。