しかし、GDPの2.5倍の債務残高を抱える日本では、財政健全化のための歳出削減が進められており、国土交通省鉄道局公共事業関係予算は2001年の約1419億円(当初予算のみ)から右肩下がりで、近年は約1000億円程度で推移している。また地方自治体の財政状況も同様に厳しい。

 そうした中、限られた予算を対象駅数が多く、また駅の規模が大きい都市部に振り向けると、地方のバリアフリー化が進まないことから、都市部においては「利用者の薄く広い負担」により、地方においては「既存の支援措置を重点化」することで、従来を大幅に上回るペースで全国の鉄道施設のバリアフリー化を加速する。

設備の維持・更新費に
年間で計600億円

 バリアフリー料金制度は建前上、整備が完了した時点で運賃の上乗せを終了することになっているが、JR東日本の計画を見ても徴収期間は13年(2035年度まで)としながら「2036年度以降も継続予定」と記されているように事実上、永続的な設定になりそうだ。

 というのもバリアフリー設備は設置して終わりではないからだ。国交省の試算によると、JR東日本、西日本、東海、大手私鉄、公営地下鉄のバリアフリー設備の新設費合計額は、「交通バリアフリー法」が制定されてエレベーターやエスカレーターの整備が本格化した2000年から2010年頃にかけて、概ね700億~900億円だった。これに対し、今後は維持・更新費が年間600億円程度必要になるという。

 もう一つの焦点は上乗せ額だ。昨年11月に新料金制度創設が発表された際「最大10円程度の上乗せ」と報じられたが、国交省鉄道局都市鉄道政策課に話を聞くと、制度上の上限額が決まっているわけではないという。算出根拠となる「バリアフリー整備・徴収計画」の総整備費と年間徴収額、徴収期間が合理的であれば20円、30円にすることも理屈の上では可能だ。

 とはいえ「薄く広く」を掲げた制度である以上、いきなり多額の料金を上乗せすることは難しい。国交省が行った調査によれば、バリアフリー化の料金を運賃に上乗せすることについては、非高齢者(20~64歳)、高齢者(65歳以上)ともに約6割が賛成、約1割が反対した。また賛成する人のうち、非高齢者は約7割、高齢者は約8割が1乗車あたり少なくとも10円以上の上乗せは妥当と回答したという。

 またこれとは別に行った、利用者がいくらまでなら負担を許容できるかを把握する「仮想的市場評価法(CVM)」を用いた調査では概ね15~20円との結果が出ている。こうしたことを踏まえ、2023年春の徴集開始時点では「10円程度」の徴収になるだろう、というのが国交省の説明の本意だったようだ。

 だが、これは足かせにもなる。JR東日本の整備・徴収計画によると2035年度までの総整備費用は約5900億円だが、総徴収額は3000億円で、全額を回収できない計算だ。制度上、総徴収額は「原則として、対象設備の整備費用等を超えない範囲」としており、加算額を20円にすることも可能だったかもしれないが、JR東日本に話を聞くと「広く薄く負担をしてもらうという観点から総合的に勘案して決定した」と説明する。