運賃値上げは
10円単位が現実的

 一方、東京メトロは具体的な上乗せ額を明らかにしていないが、4月7日の会見で山村明義社長は「10円もひとつの選択肢」との見解を示している。

 同社の設備投資計画によれば2022年度はホームドア73億円、バリアフリー整備90億円の計163億円を予定している。2021年度の1日当たりの利用者数は約18億人なので、1回の乗車あたり10円上乗せすると単純計算で年間180億円になり、総徴収額が整備費用を超えてしまう(利用者数が回復すればさらに上振れする)。

 では8円や9円に設定できるかというと、ICカードでは1円単位の運賃設定が可能だが、乗車券は10円単位なので利用する券種で負担額が変わってしまうことになる。運賃であればともかく、バリアフリー整備を目的とした加算運賃としては公平性の問題が出てくるだろう。実際、JR東日本は1円単位の設定でICときっぷで負担額に差が生じることは、公平に負担を求める観点から望ましくないと考えていると回答した。

 受益者負担の原則から言えば、上乗せ額を利用区間、利用駅ごとに細かく設定するという考え方もあるが、現行の運賃制度(運賃収受システム)では実現は困難であり、そのために多額の費用をかけるのも本末転倒だ。

 制度構築やシステム改修に時間がかかり導入が先延ばしになれば、肝心のバリアフリー化が遅れてしまい、制度の趣旨に反する。また整備・徴集計画は事業者が合理的と考えられる範囲で設定するものであり、国交省は設定範囲、徴収額、徴収期間の詳細に介入するつもりはなという。となれば実態としては「最大10円」ではなく「最小かつ最大10円」ということになるのだろう。

 話は戻って東京メトロだが、ここで言いたいのは彼らが「ぼったくり」をしようとしているということではない。

 整備・徴収計画は単年ではなく一定の期間で策定されるものであり、来年度以降これまでを上回る規模の設備投資計画を策定することで総徴収額と整備費用が均衡する。これこそが制度の目的たるバリアフリー化を加速するインセンティブである(もちろん利用者から「過大な料金」を徴収し「無駄遣い」していないかチェックは必要だ)。

 現時点で東京メトロを除く大手私鉄からバリアフリー料金制度の導入を目指す意向は聞こえてこない。2020年度の利用者数に一律10円の負担を求めるとすると、最大が東急の約80億円、最小が西鉄の8億円で、2021年度設備投資総額の概ね20%という高い水準になる。

 2019年度にホームドア整備を完了した東急、2027年度までに完了予定の相模鉄道を除く大手私鉄は、一部の拠点駅を除いてホームドア整備が進んでいないのが実情だ。エレベーターだけでなくホームドアも対象としたバリアフリー料金制度の導入が、ホームドア整備を促進することになりそうだ。