従来からTVCMと同じ素材を自社サイトで提供するケースは多かった。しかし、近年、Web用に制作した動画を特設サイトやYouTubeなどで提供する企業が増え、その動きは加速しているようだ。

 注目を浴びたのが、トヨタ自動車の超コンパクトカー「IQ」のWeb動画を主軸としたプロモーションだ。IQでは車1台の駐車スペースに2台のIQをドリフトさせながら駐車させる動画をアップロード。さらに、「駐車した2台はどうやって出すのか」というユーザーのコメントに対し、YouTubeの「動画レスポンス」という機能を使って、出庫する動画も流した。

 また、IQでは「ビジュアルミックスコンテスト」も開催。これは、IQ側がWeb上に用意した映像や音楽の素材をユーザーが自由にミックスしてCM動画を作り、そのままYouTubeに投稿できるもの。約3000本の投稿の中からユーザー投票でグランプリを決めた。これらは、Webならではの双方向コミュニケーションを動画によるユニークな仕掛けで実現した好例だ。

Webプロモーションに動画を活用する企業が増えてきた
ソニー・ハンディカムの疑似体験型ムービー「Cam with me」

 一方、ソニーでは、ハンディカムのブランドサイト向けコンテンツとして、1人の女の子が成長する過程を記録した映像「Cam with me」を提供。ユーザーは任意の部分をWeb上で録画でき、最後に編集されたムービーとして鑑賞できる擬似体験コンテンツになっている。さらに、そのコンテンツをブログに貼り付けられるコードも用意。これによって、コンテンツが自己増殖的にコピーされていくわけだ。

 さて、大企業の例ばかりだと敷居が高いように見えるが、決してそうではない。手持ちのデジタルビデオカメラで映像を撮影・編集し、YouTubeにアップロードすれば、自前のWeb動画プロモーションが簡単に実現する。YouTubeのコードを自社サイトに貼り付ければ、動画サーバー不要で動画コンテンツの提供も可能になる。

 動画制作会社のヒューマンセントリックスでは、27万円~という手頃な値段で、人によるプレゼンテーションに、資料、イメージ、サウンドを連動させた映像を制作する。その品質の高さから、DELLやマイクロソフト、日本IBMなどの大手も自社サイトに導入している。そのほか、インターネットビジネスを展開するエニグモでは、企業や製品のWeb CM動画を一般からコンテスト形式で募集するサービス「filmo」を提供する。

 これらのサービスを使えば、中小企業や個人事業主でもWeb動画を制作・配信することができるのだ。しかし、ただ制作してWeb上に乗せればいいわけではない。プロモーションに詳しいPRプロデューサーの直井章子氏は、「ユーザーに見てもらうための導線を引くことが大切」と話す。例えば広告映像をYouTubeにアップロードするだけでは、幾多の映像群に埋もれてしまう。著名なブロガーらにブログでの紹介を依頼するなど、「シーディング」と呼ばれるプロセスが必要となる(そのサービスを提供する専門の会社もある)。

 さらにWeb広告に詳しいWebプランナーの市川伸一氏は、「映像はあくまで枝葉の部分。まずは全体のプロモーション戦略を考えて、その上で映像が必要なら制作して展開するべき」と指摘する。単に流行りだからといって「映像ありき」で作るのでは当然意味はない。製品の特性、ターゲット、映像以外のプロモーション手法などを充分に考慮することが重要といえそうだ。

(大来 俊)