結果的に倒木で済んだからまだよかったが、倒木の下に土砂が流入していたり、線路が流されていたりしたら、大事故につながっていた可能性もあった。

 カーブの先やトンネルの出口など見通しの利かない場所にある障害物との衝突事故は鉄道の歴史上何度も繰り返されている悲劇である。

 鉄道車両はレールを流れる電流によって線路上に列車が存在することを検知できるため信号保安装置の進歩、改良により対応できるようになったが、鉄道のシステムの外からやってくる落石や土砂崩れによる事故を防ぐのは難しい。樹木を全て伐採したり、線路脇をコンクリートで固めたりすれば事故の可能性を限りなく低くすることはできるが、沿線全てで実施するのは費用的にも困難だ。

 現実的な対応は、人間が危険を見つけ、判断できる時間的余裕の確保だ。当日の大分市は風速10メートル前後の強風が吹いていたが、速度規制は行われていなかった。鉄道の風速規制は通常、20メートル以上で行われるため、これ自体は問題とは言えないが、一般論としては速度を落とせば空走距離と制動距離が短くなり、万が一事故が発生しても被害を抑えることができる。

 そこまでする必要があるのかという指摘があるかもしれないが、少なくとも展望席のある車両を運行する線区については、一定程度は考慮する必要があるのではないだろうか。

「ダンプキラー」の異名がついた
名鉄7000系パノラマカー

 展望席付き列車の嚆矢(こうし)は、名古屋鉄道が1961年に導入した7000系「パノラマカー」だが、当時はまだ自動遮断機の設置や線路の立体化が進んでいなかったこともあり、踏切事故の際に車両の最前部に座る乗客の安全を確保できるのか、社内でも不安視する声があったという。

 そこで名鉄は衝突しても安全な車両とすべく、ダンプカーと衝突した場合でも衝撃を吸収できる油圧ダンバーを車両前面に設置して解決した。デビュー直後、実際にダンプカーと衝突する踏切事故が起きたが、乗員乗客にけがはなく、逆にダンプが跳ね飛ばされたことから「ダンプキラー」の異名まで付けられたほどである。車両の最前部に乗客を乗せるということは、それだけ安全確保に万全を期さねばならないのである。