これまでロシア制裁には大きく二つの抜け道があった。ロシア最大手のズベルバンクとガスプロムバンクのエネルギー関連取引を制裁対象外としたこと、中国とインドがロシアからの原油などを輸入し続けていることだ。しかし、制裁が効いていないという見方は正確ではない。すでにロシア経済は困窮し、3月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で16.69%上昇した。また、半導体の禁輸によって、ロシアは精密誘導兵器の不足にも直面している。5月に欧米各国が発表した追加制裁により、抜け道は狭まる。追加制裁のポイントは大きく二つある。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)
ルーブルが上昇基調で推移したのはなぜ?
経済制裁の「大きな抜け道」とは
3月上旬以降、ロシア・ルーブルは米ドルなどに対して上昇基調で推移した。背景には、制裁に「大きな抜け道」があったことがある。ただ、ルーブルの上昇が持続的なものであるとは考えづらい。制裁によってロシア経済は、すでに相当疲弊している。
3月にロシア事業の停止を発表したイケアの店舗には長蛇の列ができ、マクドナルドのロゴを模倣したファストフード店も出現した。わが国発のうどんチェーン、丸亀製麺に対しては、ロシア企業が無断で商標を変え、店舗を運営している。軽工業やサービス業を育てることが難しかったロシア経済にとって、西側諸国の経済制裁が市民生活にもたらす物理的、心理的インパクトはかなり深刻なはずだ。
今後、海外経済との関係が弱まれば弱まるほど、ロシア経済は締め上げられる。中長期的に考えると、制裁はさらに強化される可能性が高い。それはボディーブローのようにロシア経済を締め上げ、(すでにそうだが)ロシアから多くの優秀な人材が流出し、経済はかなりの停滞を余儀なくされるだろう。