コロナ禍で東京の人口は久しぶりに減少に転じた。さぞかし住宅の需要が減退し、需給バランスは緩んでいるのだろうと思いきや、その逆だ。マンション価格も戸建て価格も高騰し、家賃も高止まりの様相である。都区部の持ち家率は2015年からの5年間で1.9%も低下した(国勢調査を基に筆者が試算)。マンション価格が高騰したからだ。マンションを買うには価格が高いが、家賃もかなり高い状況にある。今後の行方を占いながら、ギリギリの賢い選択を考えたい。(スタイルアクト(株)代表取締役/不動産コンサルタント 沖 有人)
コロナ前も現在も
家賃が上がり続けた理由とは
コロナ前に都区部の家賃は大幅上昇した。J-REIT(日本版不動産投資信託)の投資家向け資料によれば、稼働率は97%前後で、賃料変動率は6~7%の上昇が多かった。賃料変動率とは、同じ部屋が以前の賃料と比較してどの程度上がったかを表す。通常の入居年数は3年ほどなので、年率2%の上昇という物価にしてはかなり高い上昇率を示していた。
その後は、単身向けのワンルームなどは需給の悪化から賃料変動率はマイナスになっている。コロナで失業率は大きく上昇することはなかったが、飲食に代表される接客を要する業態のパート・アルバイトは大幅に職を失った。このため、単身向けの賃貸市場は稼働率が悪化し、賃料の上昇が止まった。一方、正規雇用者は雇用が安定していたため、需要が減退することはほとんどなかった。
それに、リモートワークの隆盛で仕事用にもう1部屋欲しいという人は増え、面積を大きくしたり、間数を増やしたり、郊外に引っ越したりする人が増えた。1LDK以上のストックは賃貸市場では多くはない。堅調な需要に少ないストックで、コロナ前に引き続き家賃は上がり続けたのだ。
分譲マンション価格が上昇したことで持ち家率は下がったが、その分借家世帯数は増加している。持ち家率の上昇は、30~40代で結婚して子どもが生まれた世帯がけん引するものだ。
そうした夫婦・ファミリー世帯が持ち家を購入できずに賃貸需要として残る傾向は、価格高騰の始まった2013年から起きている。この10年の間に単身者向け以外の賃貸市場は需給がひっ迫し続けているのだ。