自衛隊において女性への対応が大きく変わるきっかけとなったのが、1995年の阪神淡路大震災だ。

 通常の通信網は寸断され、使うことができない。当時、竹本氏は防衛庁で通常通信関係業務に携わり、阪神地区に救助と支援で派遣された自衛隊部隊の衛星通信網を夜間三直体制でサポートした。

 その後、竹本氏は海上自衛隊内の通信システムの第一人者として、米海軍太平洋艦隊司令部での研修やNSA(国家安全保障局)で電波関係の暗号学校に短期留学を果たした。これにより米海軍の持つ組織内の通信システム理論や統制メソッドに通じることとなった。

 こうして竹本氏を含めた自衛隊女性幹部が地位を確立した結果、今では女性自衛官は増え、長年の問題であった女子更衣室、女子トイレ、託児所などの施設も整いつつある。

自衛隊で得た知見を
学校運営に活用

 竹本氏が大阪府公募の民間人校長となり、大阪狭山高校に赴任すると聞いて、同校の教職員たちは戦々恐々としていたそうだ。自衛隊指揮官だった人物がどんな女性か想像できず、もしかしたら新校長は自衛隊風に匍匐(ほふく)前進で初登校するのではという荒唐無稽な噂もあったほどだった。

 もちろんそのようなことは全くなく、職場について教えてもらう立場と考え、時間をかけて職場の不安をぬぐい、信頼関係を築き上げていった。

 竹本氏が行ったことの一つが、教職員との業務における情報共有の強化であり、そのために、自衛隊で学んだNCW(Network Centric Warfare)の原理を取り入れた。

 NCWは「ネットワーク中心の戦い」と呼ばれる革新的な軍事システムコンセプトで、組織末端に意思決定権限を委譲し迅速な対処を可能にするものだ。米軍のみならず、イギリス軍でも同様のものが検討され、2030年までに米軍全軍全面実用化を目指している。作戦展開速度が上がり、末端組織のボトムアップにもなる。