『部下本』にない『マインド本』の味

寺田 『マインド本』で『部下本』になかった魅力的なところは、「ホワイトティッシュの事例」など、横山さんのプライベートな一面が垣間見れるところでしたが、『部下本』ではプライベートな事例は一切ないのに、2作目の『マインド本』で出そうと思ったのはなぜですか?

横山 それは編集者に言われたからです(笑)。

寺田 そうでした。私が絶対出してください!と強く懇願したんですよね。タイトルが『絶対達成マインドのつくり方』でしたので、横山さん個人の涙や痛いエピソードが必須だと思いました。それに横山さんだけができる世界の本は私自身興味がなかったので、誰がやってもできる再現性を最重要視していました。クライアントさんの客観的な事例が横山さんのエモーショナルな主観的事例とドライブがかってくるような本にしたいと、これだけは強くお願いしましたね。

横山 そうでしたね。書籍は著者だけではつくれません。まさにチームでつくった本でした。徹底的に過去から現在までのエピソードをあぶりだされ続けました(笑)。「なぜ、横山さん書いたんですか?」って、それはもう書かされたとしか言いようがないですよ(笑)。でも、私はよく「理解=言葉×体験」と言うんですけど、出版してみて初めてわかることがたくさんありました。読者の方に刺さる話は、私が知る限りでは私自身のエピソードが一番インパクトがあったみたいですね。私の仮説とはまったく違っていました。

3か月で60ページ削減!著者が気に入っていたのに闇に葬られた原稿

寺田 横山さんはよく、「習慣=インパクト×回数」と言いますが、その「インパクト」ですね。昨年11月に刊行した『マインド本』の裏話をすると、昨年6月には原稿ができていたんです。でも、そこから引き算に次ぐ引き算、というか、もう割り算くらい割っちゃったくらい、徹底的に原稿をそぎ落とし、最後に現原稿が陸の孤島のように浮かび上がってきた感じでした。あの3ヵ月、本当に横山さんとやり合いましたね。お互い妥協することなく!60ページくらい原稿を削りましたあの梅雨~秋の対峙はいまでも印象深いです。横山さんが書いては私のほうでここはいらないのでは?と横山さんに戻し、また書いていただきと、何往復したかとても思い出せないほどです。その甲斐あって、初校ゲラではあまり赤字が入らない理想的な展開になりましたね。

横山 そうですね。『マインド本』のもともとの原稿は、かなりキツイ話だったと思うんです。気に入っていたのに闇に葬られた原稿が「始める技術」「続ける技術」「やりきる技術」の方法論の記述箇所。そんな技術は一つもいらない。始めればいいし、続ければいいし、やりきればいい。それぞれの技術があると思うから「思考ノイズ」が入るのだ、と私は書いたのですが、編集者から「厳しすぎる!」と言われ、すべてカットされました。あと、一番カットされた量が多いのが「言い訳」の種別ごとに解説した章。当初、章にしようとしていた「エクスキューズ系 vs スピードマスター」の箇所では、言い訳の種類を体系的にまとめてたくさん入れたのですが、「上司が部下を見ているような内容」と言われ、全部カットしました。どの目線で書くかという面では、『部下本』と『マインド本』ではずいぶん違っていましたから、難しかったですね。

寺田 そうですね。当初の目次案では章扱いだった「エクスキューズ系」の項目は、「スピードマスター」との対立から活路を見出せれば面白いかな、と思っていたのですが、原稿を見ると、状況描写に終始していて、横山さんのほとばしる汗や熱気が感じられなかったんです。原稿を読んでもどかしい気持ちになり、どうしたら、これだ!という訴求ポイントが発揮できるか考えました。その結果、おもいきって「エクスキューズ系」は全カットし、新ネタの横山さんの汗と涙の個人的な事例を入れたいとお願いしました。そうしたところ、最後の最後に、『マインド本』の85~87ページにある、市民プールでの「ホワイトティッシュ」の事例が出てきたんです。これだあ!と思いましたね。『マインド本』の冒頭に出てきたあの「集めたティッシュ」がここで出てくるか!と。市民プールでバスタオル忘れ、お子さんの体をあのホワイトティッシュで拭いたエピソードを原稿で読んだとき、ジーンときました。体全体に鳥肌がたったんです。

横山 妻も言っていましたが、あんなこと、本に書いていいのかって気はするんですけどね(笑)。

寺田 「絶対達成シリーズ」全体の位置づけでは、最終的に『マインド本』がコンピュータのOS、『部下本』がアプリケーションとなりました。この発想はシリーズ開始当初からあったのでしょうか。

いきなり「予材管理」をやってはならない理由

横山 そうですね。私自身、実際に現場に入っていると、『部下本』に書かれてある「予材管理」の中身をもっと知りたいと言われることが多いのです。しかし、私は必ずコンサルティングの手順をまず紹介します。コンサルティングしてから約半年くらい経ってからでないと、「予材管理」は始められないので。

寺田 そうなんですか。

横山 「予材管理」もいいんですけど、「そもそも大量行動はやっているんですか?」と。そして「行動をロックしていますか?」と質問します。そうすると、ほぼ100%の企業のマネジャーから「行動をロックするというのは、まだまだです」「お客様への訪問は全然ものたりないです」という答えが返ってきます。というか、そもそも「目標に焦点が合っている」のかというと、やはりそうなっていない、「現状維持バイアス」がかかった部下ばかり、と言われてしまうのです。それではいけません。そのような状態で「予材管理」を始めたら現場はパニックです。足腰がまだ鍛えられてもいないのに、いきなり実践練習をさせられるスポーツ選手のようなものです。

寺田 まず大量行動があって、半年後から「予材管理」というステップが大事ということですね。

横山 そうです。この手順は、私のコンサルティングの失敗体験に基づいています。現場で「予材管理」からやっていくと、本当に結果は出ません。営業の「現状維持バイアス」がはずれないからです。「予材管理」が先だと、多くの経営者、マネジャーは「予材管理」のやり方ばかりにとらわれますから。

寺田 『部下本』で初めて「現状維持バイアス」というコピーを聞いたとき、かなり新鮮な響きでした。これもNLP用語ですか?それとも独自の「横山語」ですか?