5月25日、東京都が「首都直下地震等による東京の被害想定」を公表した。これをめぐる報道を見ていると、大切な視点を見落としがちなことに気づく。専門家の立場から、どこに住んでおくべきか、地震後の不動産価格がどうなるかについて、読者の疑問にお答えしよう。(スタイルアクト(株)代表取締役/不動産コンサルタント 沖 有人)
東京都が首都直下地震の被害想定を公表
「地震予知より大切なこと」とは?
東京都が「首都直下地震等による東京の被害想定」を今年5月25日に公表した。その報道内容は主に以下の3つである。
・今後30年以内に南関東地域におけるM7クラスの確率は70%と推定
・都心南部直下地震では死者は6148人
・高層建築物(高さ45m超)の棟数が都区部を中心に、10年前と比べて1077棟増えた
こうした報道は記者が作った二次情報なので、専門家はその元となった一次情報を見ないとコメントしにくい。単純に、伝える優先順位が違うからだ。地震は日本では日常的に起こるし、大災害になることも多いので、興味を引きやすい。そして、報道は不安やリスクを強調しやすい特徴を持つ。その結果、報道は大切な視点を見落とすことになりやすい。
地震の発生確率は当てにならないし、過去に地震の予知をできた試しがない。例えば、東海地震説が発表され「明日起きても不思議ではない」という言葉がマスコミで強調されてから30年以上が経過しても、次の東海地震は発生していない。阪神・淡路大震災も東日本大震災も突然起こり、直前対策が取れなかった。世界中で地震予知に予算を割くのは日本だけだ。それは地震を軽視しているのではなく、他の方法が有効だと考えているからである。
他の方法とは何かというと、それは減災である。地震は来るものとして、来ても死者をなるべく出さないために予算を使うということだ。地震学者の確率ゼロに近い研究よりも重視すべきは、1人でも多くの命を救うことである。
今回の想定は、10年前の見直しとして行われている。その間に、耐震化の推進や出火防止対策の推進によって、死者数が前回の9640人から6148人に減少(36%)されている。このペースで行くと、あと20年経過すると被災者はゼロになるほどの格段の進歩である。減災に向けて努力をすることの意味は非常に大きい。
地震後の不動産価格はどうなる?
どこに住むべき?
こうして見ると、不安をあおる意味はなく、これまでの政策を着実に進めれば時間が問題を解決してくれることになる。しかし、恐れるべきことは他にある。それは、どこに住んでおくべきか、地震後の不動産価格がどうなるかだ。この疑問に、専門家として回答しておきたい。
東日本大震災で最も被害を受け、その後の不動産価格が致命傷を負った場所は1つしかない。