若者の就職難については、『中国で「高学歴貧乏」が増加、若者の深刻な就職難・リストラの実態とは』にも書いた通り、近年、公務員や国有企業の人気が高くなり、し烈な競争が繰り広げられるようになっていた。今年に入ってから、そうした競争は一段と激しくなってきたようだ。

 競争の厳しさは、優秀な若者たちが就職を希望する「場所」にも表れている。

 以前は、北京や上海、深センなどの「一線都市」が若者たちの第一の選択肢だった。ところが今年は、これまで彼らの眼中に全くなかった、むしろ差別すらしていた無名な地方の小さな政府機関への就職人気が上昇しているという。

 例えば、中国東部、浙江省にある人口20万人ほどの小さな県政府の24人の採用枠には、全国の名門校生から応募が殺到した。採用された学生のほとんどが、修士や博士号を取った人たちだという。
注※中国では、直轄市を除くと省→市→県→鎮→村というように行政区分が行われている。

 また、北京大学大学院を卒業した博士が北京にあるコミュニティーで、路上販売をする商売人や違法に設置された物の排除と立ち退きなどが主な仕事の「城市管理員」の職に就いたことが、中国で大きな話題となった。

 就職の狭き門の前に、多くの若者は就職先の規模や所在地、給料などの条件を下げ、夢と志を捨てて、「安全、安泰」を求めるようになったのだ。

上海を離れようとする人で長蛇の列……
高額費用、高いハードルでも「脱出希望」

 中国有数の一線都市である上海でも、こうした就職や生活の厳しさから、街を離れようとする動きが加速している。3月末から約2カ月間にわたって実施されたロックダウンが、その契機となった。

 ロックダウンから約2カ月弱たった5月16日、高速鉄道の虹橋駅の入り口には長蛇の列ができていた。その多くが、上海を離れようとする人たちだ。駅に入場するのに2時間かかり、1日の乗客は6000人を超えたという。高鐵(中国新幹線)の運行本数が通常より大幅に減っている中、切符の入手が困難になり、転売屋から定価の何倍もする値段で買った人も少なくなかった。

 切符を手に入れたとしても、自宅から駅までたどり着くのにまた一苦労だ。公共の交通機関が止まっているため、通行証を持っているタクシーが移動手段となる。ただ運賃が高額なのでそれを払えない人は、シェアバイクに乗り、片手はハンドルを握って、もう片手はスーツケースを引く。数時間以上かけて歩いて帰ったり、前夜から駅の入場口に並び始めたりした人も多かったという。SNSでは連日、「離滬潮」(“滬”は上海の別称、上海を離れていく潮流という意味)関連の投稿や写真が注目を集めた。