SNS上の投稿などを見ると、林さんと同じ思いをしている若者が少なくないことが分かる。「焦燥」「恐怖」「不安」「疲弊」「失望」「絶望」……といった単語が多くの投稿で見られた。ロックダウン下でたくさんの零細企業が倒産に追い込まれたことで、失業者が大量発生。林さんはまさにその一人だった。

 中国最大の国際都市、上海。その開かれた雰囲気や西洋の文化が入り混じった気質から、地方都市や農村部の若者にとっては憧れの地だ。上海の大学に進学できることや上海で就職できることは、本人はもちろん一族にとっても誇り高いことだった。

 ところが、急激な発展を背景にインフレが進み、不動産価格は異様なまで高騰した。一生お金をためても家を買えない。給料の大半が家賃に費やされてしまう……。そのため、近年、「上海は住みにくい」と感じた多くの若者が、上海を離れて「二線都市」に移り住む流れができ始めていた。今回のロックダウンでは、その流れが一気に加速したといえるだろう。

 6月1日、上海ではロックダウンが解除された。活気を取り戻していく中で、上海を離れていた若者たちは戻ってくるのだろうか。あるいは、一度加速し始めた「脱出」の流れは変わることはないのだろうか。この変化は、上海という街にも大きな影響を与えそうだ。