YouTubeに流れないテレビ愛好家
それぞれの思い

 冒頭で「若者のテレビ離れが深刻」といった旨のことを書いた。 しかし、「よく、そう聞くけど、実際そんなことはない(実際は見る)」と話す若者の声もたまに耳にする。日本トレンドリサーチが2021年7月に行った調査によると、「普段、テレビを見ますか?」という質問に対し、「よく見る」「見る」と回答したのは70代以上で計86.0%だったのに対し、20代以下は計62.0%となった。世代間ではたしかに大きな差があるのだが、20代以下でも「62.0%『も』見ている」…と捉えることもできる。
 
 やはり、いまだにテレビは強いともいえる。
 
 話をYouTubeに限って、「YouTubeは見ない。テレビは見る」という中年数人に話を聞いたところ、以下のような声があった。
 
「テレビは『この時間、この番組を、他の多くの人が見ている』という一体感がある。YouTubeは番組(配信)が無数に分化しているので、一体感は薄れる。
 
 動画の生配信はたしかに一体感があるかもしれないが、そもそもその配信者のファンでなければ一体感をあまり楽しめない」(41歳女性)
 
「YouTubeのガツガツしたテンションが性に合わない。YouTuberの『売れてやろう』という前のめりな姿勢と、サムネ詐欺・タイトル詐欺に辟易(へきえき)してしまう」(45歳男性)
 
「長く続いている、好きな番組があるのでそれを追い続けている。それだけで結構満足しているので、YouTubeに食指を動かす気にならない。『自分で見たい動画を探す』という過程が面倒に感じる」(41歳男性)
 
「『YouTubeは時間泥棒』と聞いているので手を出さないようにしている。他のSNSをたしなむだけでも手いっぱい。テレビを付けてちょっと見るくらいが、時間的にちょうどよい」(35歳男性)
 
 どれも「テレビでまずまず満足」という前提がありつつ、テレビにはない、YouTubeならではの特性が「見ない理由」となっている。
 
「テレビの方が一体感がある。YouTuberのファンでないと一体感が出ない」や「YouTuberのガツガツした雰囲気が嫌」という意見は、YouTubeの面白さと表裏一体である。むしろそれを理由として、YouTubeを好む人も多いのではあるまいか。
 
「YouTubeは時間泥棒」というのも、YouTube視聴の面白さについての言及である。関連動画を追ううちに次々と見てしまうのがYouTubeの魔性たる由縁であるが、その中毒性は自覚的に距離を置きたい人にとって敬遠される。テレビなら、その番組が終われば一応一段落ついて次の番組が始まるので、切り上げやすい。
 
 また、「YouTubeは見ない」という声の中には、こんな理由もあった。

「テレビは私にとって家族団らんの象徴なので、家族が家にいる時間帯は常についていてほしい。YouTubeにはそうした温かみがないから、見る気にならない」(42歳男性)
 
 今回紹介した「YouTubeは見ない。テレビは見る」という人たちは、テレビに対する肯定とYouTubeに対する否定が混在しているようであった。
 
 しかし中には、YouTubeに限らないネットコンテンツ全てをまったく否定せず、純粋にテレビが大好きな「テレビこそ至高」派もいるようである。今回「テレビこそ至高」派に話を聞くことはかなわなかったが、機会があれば紹介してみたい。
 
 新聞、ラジオ、雑誌など、媒体にはそれぞれ独自の良さ・趣がある。ネットが台頭するまで、テレビは極端な支持率によって有無を言わさぬ“面白さの剛腕”を振るってきた。しかし、現在はその剛腕が以前ほど発揮されなくなってきたゆえ、改めて「テレビならではの良さ・趣」が見直されつつある局面にあるのかもしれない。