金を採る方法

 古代から現代まで、砂金や自然金が豊富に土砂のなかに存在する場合に金を採るための「特別な方法」がある。まずもっとも原始的な「パン」(洗面器のようなパンニング皿)でふるいを行う。パンに土砂と水を入れてゆすると、密度の大きな砂金がより分けられるのだ。

 金鉱山(銀鉱山などでも)で金鉱脈をふくむ岩を掘り進めるのは、長いあいだ、タガネとハンマーだけの手掘りだった。十九世紀中頃に蒸気力による穴開け機・削岩機が現れてから、圧縮空気で動かすようになり、さらに油圧を使うようになった。さて、次の革命的な出来事は岩石を爆破するダイナマイトの発明だ。

 こうして得られた鉱石は、古代では石臼と鉄のきねで粉砕された。十五世紀には水力、つまり水車の動力を使うようになり、十六世紀に栄えたボリビアのポトシ銀山でも使われた。現代でもこれを改良した機械が用いられている。

 金を分け取るには、水銀に溶かし込むアマルガム法が古代から用いられた。金は常温で液体の水銀に溶け込み、水銀との合金であるアマルガムとなる。このアマルガムを加熱して水銀を蒸発させれば金が残る。この方法は古代から知られていた。

 しかし、水銀は貴重な金属なので、アマルガム法に代わる方法が探し求められた。それが十九世紀に導入されたシアン化法である。

 シアン化法は、シアン化カリウム(青酸カリ)水溶液が金を溶かすことを利用した方法だ。細かく粉砕した鉱石を、シアン化カリウム水溶液のタンクに入れて、よく空気にふれるようにかき混ぜ、金をイオンとして溶かし込んだ溶液をつくる。この溶液に亜鉛を入れると、イオン化傾向が大きな亜鉛がイオンになり、金を取り出すことができる。シアン化法で金の含有量が少ない低品位鉱からも金を抽出することが可能になったのだ。

(※本原稿は『世界史は化学でできている』からの抜粋です)

左巻健男(さまき・たけお)

東京大学非常勤講師
元法政大学生命科学部環境応用化学科教授
『理科の探検(RikaTan)』編集長。専門は理科教育、科学コミュニケーション。一九四九年生まれ。千葉大学教育学部理科専攻(物理化学研究室)を卒業後、東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻(物理化学講座)を修了。中学校理科教科書(新しい科学)編集委員・執筆者。大学で教鞭を執りつつ、精力的に理科教室や講演会の講師を務める。おもな著書に、『面白くて眠れなくなる化学』(PHP)、『よくわかる元素図鑑』(田中陵二氏との共著、PHP)、『新しい高校化学の教科書』(講談社ブルーバックス)などがある。