火の発見とエネルギー革命、歴史を変えたビール・ワイン・蒸留酒、金・銀への欲望が世界をグローバル化した、石油に浮かぶ文明、ドラッグの魔力、化学兵器と核兵器…。化学は人類を大きく動かしている――。化学という学問の知的探求の営みを伝えると同時に、人間の夢や欲望を形にしてきた「化学」の実学として面白さを、著者の親切な文章と、図解、イラストも用いながら、やわらかく読者に届ける、白熱のサイエンスエンターテイメント『世界史は化学でできている』が発刊。発売たちまち1万部超の大重版となっている。
池谷裕二氏(脳研究者、東京大学教授)「こんなに楽しい化学の本は初めてだ。スケールが大きいのにとても身近。現実的だけど神秘的。文理が融合された多面的な“化学”に魅了されっぱなしだ」と絶賛されたその内容の一部を紹介します。好評連載のバックナンバーはこちらから。

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農耕革命と都市の成立

 狩猟採集の遊動生活から、定住して作物を育て、牧畜を行う─つまり農業を行う新しい生活への大転換は「農耕革命」(または農業革命)といわれる。農耕革命が起こったのは、ほぼ一万年前、現在のイラン・イラク・ヨルダン・レバノン・イスラエルにまたがる地域(古来、「肥沃な三日月地帯」といわれる)が有力視されている。

 農耕革命で、食料の供給が安定すると、人々の定住化はさらに進む。集団で農作業を行うためには指導者が必要になった。石づくりや日干しレンガによる家屋がつくられ、城壁なども登場した。外敵から身を守るためには武人も必要だ。また、豊作を祈るために神殿を中心にした集落に発展した。

 狩猟採集の頃は、人々は遊動していたため富の蓄積は難しかったが、農業中心の定住生活になると富の蓄積が可能になる。そして、貧富の差や身分の差も生み出された。

 食料に余剰が出ると、農業に従事しない人々も現れてくる。王、神官、武人、平民、奴隷などの階級社会になっていく。こうして約六千年前の古代都市ができて都市文明の発祥に至るのである。農業の開始は、人類史の大転換点になったのだ。

生きるために必須の五大栄養素

 私たちにとって非常に大切なモノである食物。私たちは食物を摂取することによって、生命活動に必要なエネルギーや成長の源になる栄養分(五大栄養素)を得ている。カレーライスを食べることも、五大栄養素を摂取するのに役立っている。

 五大栄養素とは、【炭水化物】【タンパク質】【脂肪】【ビタミン】【ミネラル】のことである。私たち人類は雑食性だ。動物食も植物食も行う。だからこそ、あらゆるところで、あらゆるものを食べ物として利用して生き延び、世界各地に拡散することができた。

 しかし、逆に言えば、幅広く食べないと健康を維持できない。草食獣のシマウマも肉食獣のライオンも、草ばかり、肉ばかり食べても健康を害しないが、人は偏った食生活では健康を害する。現在のような飽食の時代でも健康問題が生じるのは雑食性のゆえだ。